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全日本大学軟式野球小野監督の流儀

GUEST:小野 昌彦(おの まさひこ)

東北福祉大学軟式野球部コーチ・監督代行。高校、大学では硬式野球部で活躍。その後、東北福祉大学軟式野球部でコーチを続け、2015年より全日本大学軟式野球連盟日本代表監督に就任。


東北福祉大学軟式野球部で指導者として活動する一歩、全日本大学軟式野球連盟日本代表監督としても活躍する小野監督へ対談のお時間をいただきました。
指導するうえで大切にしている考え方などお聞きしました。

※本記事はnote移行前の旧SPODGEで2019年4月10日に掲載した記事になります。


主体的に動く

ー日本代表はいろいろなチームの方が集まる組織だと思いますが、監督として指導する際に大切にしていることはありますか?

僕自身、そして、大学の指導方針もそうですが、主体性を持たせることを一番に考えています。僕は硬式野球の経験で、どうしても上からの指示で動くというところがありました。ですから、自分たちで考え、目標設定をして、何をするべきかということをまず考えさせています。

ーなるほど。軟式野球日本代表の場合、目標設定は世界一ですか?

硬式野球と違い、軟式野球界には世界大会のような各国が集まる大会がありません。じゃあ世界大会を開くために、「今現在の代表チームで、何をすれば未来の自分や後輩たちが世界大会を開けるようになるのか」ということも考えながらやっています。

そういう面では、マイナースポーツとして「こういう形で世界に広げよう」とか、子ども達に「軟式は安全な野球で、硬式に行く前にこういった野球もあるんだよ」ということを世界的に広めていきたいと考えています。

硬式野球は危険なイメージがあるというのが親御さんの本音で、実際に死亡事故が起こっているケースもあります。子どもは野球がやりたい、でも親は危険だからやらせたくないというジレンマの中で一つの選択肢として、軟式野球にしかできないやり方でアプローチしていこうと思っています。

ー選手に主体性を持たせることが大切だと仰っておりますが、小野さんご自身が「そうしよう」と思ったきっかけはありましたか?

選手としては硬式野球の経験しかありませんが、高校、大学と経験した中で、「指示を待つ」という姿勢にずっと疑問を感じていました。
そこに疑問を感じた原点は、最初に膝の手術で入院をした時です。リハビリをする中で、言われていることだけやっていたら、どう考えてもケガをしていないみんなと同じレベルでいられるどころか差が開いてしまう、追いつけなくなると感じました。

そこで自分で考えて、「自分に何が足りないのか」ということを見つめて、何が必要なのかを勉強しなければいけないと考えました。監督や部長は全体を見ないといけないので個の選手だけに目を向けるわけにいかない。そんな中で大きな気づきがありました。

入院先で知り合った大阪府警ラグビー部の方と仲良くしている中で、その人たちから「ラグビーは中学校、高校、大学関係なく、監督はフィールドにいないぞ。野球は監督がいるけど、結局、プレーしているのはお前らじゃないの?」と言われた時に、そこで自分の中の「クエスチョン」が「ビックリマーク」に変わって、「あ、やっぱりそうか!」と腹落ちした感じでした。

どういうことかというと、監督からの指示は当然あるけど、指示した目標にたどり着くために、自分で考えて、準備することが結局大事なんじゃないかということにたどり着いたんですよね。

ー主体的に考えることを重要だと気が付いたんですね。

そこが主体的に考えるようになったスタートですね 。僕は人生の師と思っている方が二人いて、一人は自分の父親ですが、野球・スポーツに関しての師は、父の友人であり、西武やダイエーのGMで活躍した『根本陸夫さん』とです。共通しているのが「指示を待っていたらダメだ」ということでした。

ー当たり前と思っていた野球が出来なくなるといろいろな価値観が変わりますよね。私も入院した時に感じました。


軟式野球の可能性


ーお話を聞いていて感じたのが、競技色の強い『硬式野球』と比べて、『軟式野球』は野球というスポーツの可能性を広げていくために必要で、両輪となって棲み分けて発展していくことが、今後の日本球界発展のカギではないでしょうか。展望はありますか?

僕は軟式野球の変革をしたくて監督に就任しまして、一方で父親が硬式野球の全日本大学野球連盟専務理事、関西野球連盟の理事だったこともあり、硬式野球も近い距離で見てきました。

ただ、残念なことに2024年オリンピックでまた野球が競技から外れましたよね。
今、硬式野球だ、軟式野球だと言っている場合じゃない。今こそ、全日本軟式野球連盟、硬式の日本野球連盟、日本ソフトボール協会が手を組むべきだと思います。「何を言っているんだ」と言われるかもしれないですけど、硬式野球とソフトボールだけでは限界があると思うんです。

同じ野球でボールが違うだけだと思います。であれば、軟式は軟式にしか出来ないことをして、野球というスポーツを広げていけばいい。そして、硬式野球は野球を続ける上で、もう一つの選択肢として考えればいいと。ソフトボールと硬式野球がタッグを組んでいますが、「それだけでいいんですか?」と思います。

でも、硬式野球の考え方もわかるんです。彼らからすると、軟式は「お遊び」のイメージがある。
だからこそ、大学と全日本軟式野球連盟も天皇杯に出場しているような強豪チームと連携をとって、野球界を変えていくというか、構造自体を変えなければダメだと思うんです。
大人のプライドなんていらない。これから20,30年と子どもたちが減っていく中で、どうやって野球というスポーツを残していくのか、先を考えて野球のことを考えなければいけないと思います。

僕はトーナメントのような一発勝負の場合、プロよりアマチュアの方が強いと思っています。トーナメントが多く戦い方を知っているからです。大学でもそうですが、東北大会はリーグ戦と言いながら、1試合でも負けたら脱落する緊張感の中リーグをやっていますよ。

オリンピックへプロが出るのであれば、軟式野球を別の競技としてやるべきだと思います。安全面は考慮されているし、フェンスなどの設備が十分でなくてもできますよということを海外へ伝えていくことで野球のイメージを変えられます。現に、後進国へ野球道具を送っているのは軟式野球が多いですよね。硬式のボールは雨に濡れてしまったらダメになるし。

ー野球界として、軟式野球を上手く活用してほしいということですね。
極端に言えば、軟式野球を野球普及の手段として使ってくれれば良いんです。

軟式野球の発展のために、硬式野球にお金を全部出してほしいなんて考えていませんし、それは僕らで努力する問題です。実際、大学軟式野球の日本代表は自分たちでスポンサーを探しています。

(我々の)メインスポンサーはキリンさんですが、野球をサポートするという話になった時期がありました。それに対するリターンとして僕たちに何ができるかというと・・・野球教室を開くという話だったので、プロ野球選手を呼ぶのであれば、ボランティアでアシスタントをやりますよとお伝えしました(硬式野球部はプロ・アマの規定により指導できない場合があります)。キリンさんへは大学軟式野球が組織になるための土台作りをしなければいけないので「知識をください」と伝えました。

そこから話はとんとん拍子に進み、今は全国各地で開催される野球教室で、軟式野球に取り組む地区の大学生が10名ほどボランティアでプロ野球選手と一緒に野球教室を行っていますよ。


学生としての在り方


ー東北福祉大学では特に学業もしっかりと行う環境があるとお聞きしました。その中で、硬式野球、軟式野球、ゴルフで日本一になっていますよね。素晴らしいです。

個人種目を含めると空手部も昨年日本一になりました。学校の方針で「スポーツ馬鹿になるな」という先代の学長からの考えで、全ての部活動が単位を優先しています。ですから、補講も含めて授業に重ならないように活動しています。もちろん合宿もそうです。リーグ戦も仙台では必ず土日にやるようにしますから。

部員数が多ければ、学校へ行かないで遊ぶや人も出てきますから、そこをどう少なくするかということ、ここ十数年間は運動部の指導者はみんな注意しながらやっています。 学校あっての部活動ですからね。

ーそういった環境の中で、常勝集団になる理由は何がありますか?

東北福祉大学に来て感じたことは、野球部やゴルフ部など、大学記念行事やオフシーズンになるとOBが来ますね。OB 会にしても集まりも結構いいみたいです。主体性を促すための自主性を行動で見せるような教育を大学の各指導者がしているからだと思います。

今は、OBが練習できる環境があるので、現役との間にコミュニケーションの場があることは素晴らしいことだと思います。こういったOBの活動が今の現役学生に伝わっていると思いますよ。ゴルフ部は元々こういったことがありませんでしたが、今はOBの松山英樹選手は東北にきたら必ず一緒に練習をしています。

ー学校を挙げての校風・文化ですね。主体的に動くといえば、学生が考えて朝に練習をするようになったとお聞きしました。

朝練の件については僕からは一言も言ってないです。2013年に日本一になりましたが、2012年の時に全国大会決勝戦で日体大に0-1で負けました。その時に当時のキャプテンたちがどうすれば勝てるのかを考えた結果です。

ー先日、天理大学ラグビー部の記事をご覧になられたとお聞きしましたが、負けから学ぶことはたくさんありますよね。

負けた後は誰でも反省します。でも、学生は「大会まで、まだあと何日もあるから」という気持ちなので、3日後には反省を活かせていないんです。僕は「勝たなければ見えない景色がある。そのためにどうするのか。」と考えているので「練習試合で負けたことを、その後に活かせていないよね。」とヒントを伝え、それ以外は「あとは自分たちで考えなさい」と伝えました。

数日後に、新キャプテンから「朝6時から練習してもいいですか?」と相談を受けました。当時は寮がなく、部員は自宅から通っていたので「ちゃんと練習に参加できるか?大丈夫か?」と返したんです。それでも、「勝つために、そして授業をちゃんと受けるにはこれしかないんです」と言われました。朝練習をすれば、必然的にそのまま授業に行く環境ができますから。

学生同士注意し合いながら、家が遠い人は近くに住む学生にシャワーを借りて授業に参加するなど協力し合っていましたね。学校へ行って勉強するなど、私生活もしっかりやることが、野球に活きてくると考えて学生が決めて取り組みを始めました。

ー朝6時からの練習に切り替わったあと、成果は出ましたか?

取り組んだ翌年の2013年に、20年ぶり2回目の全国優勝を果たしました。
僕も学生から勉強させられました。


強いチームとは


ー監督・コーチが「学生から学ぶ」ということを聞くことは少ないですよね。

素直に学んだと思います。僕は勉強するのに年齢なんて関係ないと思っています。今の学生は息子ぐらいの世代になっていますけど、それこそ僕がここにきた23年前なんかは、学生と3歳くらいしか年が離れていないので、学生と衝突もありましたよ。つい先日もここに来たばかりの時に当時3年生だった教え子と会いましたが「あの時は取っ組み合いになったよな~」と笑い話をしました。

ー強いチームはチーム間の摩擦を恐れていなくて、変な人間関係はないですよね。

まぁ人間なので合う、合わないがあるじゃないですか。ただ、同じユニフォームを着て、同じグランドに立った時に、同じ目標に向かって一緒に進めるかどうかが強さだと思うんです。それはレギュラーか補欠かなんて関係なく、同じ方向に進む中で、意見をぶつけ合えるチームが強いと思っています。

ー全員が同じ目的を持つことが重要ということですよね。

今年のチーム目標は「連覇」なんです。昨日初めてオープン戦を行いましたが、スコアブックを見て「連覇するためにどうしたいか意図が見えない。チームでミーティングをしなさい」とアドバイスをしました。

ーミーティングが大事ということですか?

そうです。「とにかくミーティングをしてくれ。単なる報告会ではなく、全員で話し合いなさい」と伝えています。キャンプ中は話し合う時間を大切にしてほしいので、部員全員が一緒の部屋で過ごせる研修センターをお借りしています。キャンプや大会中は僕が洗濯をしていますよ。(笑)

あとは、合宿中はチームで決めたことを全員でやり切ってほしい、信念をもって取り組んでほしいと思っているので、グランドまでの往復16kmを走らせます。今時ちょっとありえないかもしれませんが。僕もキャンプ1週間前は練習場から自宅までの8kmを必ず歩いて帰ります。正直、辛いです。(笑)でも、やりきることが大切です。

合宿後はチームの目標が安定します。ただ、仙台(大学)に帰ってくるとなかなかこういう経験をすることができないので、どういう風にチーム内で同じ目標を持つのかという話をしています。

いつもは2時間の練習しかできない。かつメンバーが26人、メンバー外が15人いるわけですね。メンバー外が「こういう練習するときは手伝えるから言ってくれよ。」と言うのか、「そんな手を抜いてやっているならいつでも代わってやるよ」と言うのか。後者はメンバー外の考え方。前者はメンバーをサポートする考え方。チーム全員が同じ方向を向くためには「お互いが考えなさい」と言っています。なので、僕はなるべく試合毎に選手を入れ替えています。


あたりまえを、超えていく


ー軟式野球全日本の監督としての目的、東北福祉大学の軟式野球部の目的を問われたら、どのように答えますか?

社会人で活躍する人間を『野球』というアイテムを使って作りたいと考えています。みんなと同じスタートラインではなくて、一歩でも二歩でも進み、すぐに戦力になれるような準備期間が大学4年間だと思うんです。軟式野球でできることは、主体性をもって自分たちでやっていく人間を作りだと思います。

ここ数年、大学を見ていて変わってきたなと思うのは、硬式野球もゴルフ部も自主練習が増えたと思います。自主練習を授業後にやっている人間が多い。特にゴルフ部なんかは真っ暗になるまでトレーニングをしていますよ。そういった学生は次の日もちゃんと学校にきていますから。

特にすごいと思うのは、女子ソフトボール部です。まだ1回ぐらいしか結果は出てないですけど、彼女達は授業の合間で練習しています。素敵な体育会の学生生活を体現していますよ。

僕は、勝つには『人間力』が必要だと思います。心技体と言いますが、「技」は最後だと思っています。まず、心があって、体作りして、技術だと思うんですね。学校HPに「あたりまえを、超えていく」とありますが、当たり前のことを当たり前にやる。こういったことが野球の練習にも繋がると思います。

提供:東北福祉大学軟式野球部

ー大学スポーツにとって、日本一を取っている大学が主体性の大切さなどを発信してくれることに僕たちはすごい意味や意義があると感じています。

軟式野球は指導者の考え方を伝えやすいです。硬式野球などのメジャーなスポーツは、どうしても勝利の内容がクローズアップされがちで、そもそも学校がどういう取り組みをしているか等はあまり書かないですよね。
今回、このインタビューのお話をいただいて、監督の指導や学生の取り組みについてスポットを当てて書いてくれる方がいるんだと感じましたよ。こういった縁を大切にしなければいけないと。僕はそういう方々から勉強させてもらって、学生たちに還元していかなければいけないと思っています。

ー話し手のテクニックも必要ですよね。

高校生も大学生も一緒ですよね。僕も1月に高校生へ話す機会があった時に思いました。最初は眠そうにしていたんですが、ちょっと視点を変えて話を振ってみたり、笑いを狙ったりしたら、目がキラキラしていましたね。

ーグループワークを授業とかで行いますが、全員とまんべんなく会話をすることが大事ですよね。

ミーティングでも、学生全員が意見を言えるようなものをミーティング前に行って、意見を出し合ってやらなければいけないと思います。ミーティングだと誰かが話して、「そうだね」で終わってしまうことが現実的なので。ミーティングの進め方など教わる機会がないですし、逆にわかりやすく伝えてくれる人も少ない。 そこも僕は何とかしていきたいなと思っています。


本気になることの大切さ


―スポーツが持っている可能性や、社会人としての価値を「スポーツから学んだ」と感じることはありますか?

体育会系が重宝されたのは、言葉遣いや人との接し方、あとは、先輩に対する尊敬の念ですよね。今はこういった人が少なくなりました。だからいつも思うのは、僕ら自身が本気でぶつかっていかない限り、彼らが本気になって考えないし、「何を言っているんだろう」で終わっちゃうと思うんです。今の若い人たちは仕事も遊びも本気になれない人が多いと思うんです。そこが一番怖いなと思います。

ー本気になる若者を増やしたいですか?

増やしたいです。何事も本気でやってほしいと思います。僕らは熱くなれたと思うんですよね。今熱くなることは格好悪いことらしいので・・・。ある程度の実力があれば、熱くなることができると思いますが、そこまでいけないと景色を見ることができないので分からない人には分からないと思います。

去年から社会人大会に東北地区の選抜メンバーで出るようにして、東京ヴェルディ・バンバータみたいな軟式野球をやっている人間からすると憧れのチームと試合する大会に参加させてもらいました。他の大学の人間もこの景色を見て変わりましたね。

ーだから社会人チームの大会に選抜チームで出場するということですか?

「単独で出場してください」と言われましたが、「選抜チームでお願いします」と言って、各大学から均等に選びました。去年は急だったんで決勝トーナメントの6チームから選びましたけど、今年は15の大学から選びたいと考えています。それこそ、勝った時にしか見ることができない景色に近いものが彼らに見えると思うので。