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今この時だからこそ考える、それぞれにできること。

GUEST:臼井博文(うすい ひろふみ)

静岡県沼津市出身、早稲田大学卒。
株式会社サンリ 取締役/能力開発研究室室長
JADA日本能力開発分析協会認定、SBTグランドマスターコーチ

スポーツ・ビジネス・教育、全ての分野の潜在能力開発に携わる。
スポーツの分野では、指導を受けた200名以上の選手・チームが世界大会に出場。
五輪では通算4個の金メダル獲得をサポート。中学・高校でも300校以上が全国大会出場し37校が全国優勝。甲子園には30校が出場し6校が優勝を果たす。

ビジネスの分野でも、上場企業をはじめとした企業の経営者・幹部・社員教育を全国各地で実施し、数多くの実績を上げている。また教育の分野でも、進路講演、教職員研修、校長会研修の講師として全国各地より講演依頼を受けている。

■主な著書
・本番で実力を発揮するメンタルトレーニング その1「緊張」
・本番で実力を発揮するメンタルトレーニング その2「諦めないハートの作り方」


今回のインタビューは、「No1プロジェクト」で協力いただいている株式会社サンリの臼井氏にこの時期だからこそ必要な「考え方」についてお話を伺いました。

※本記事はnote移行前の旧SPODGEから2020年4月28日に掲載した記事になります。


受容出来る人=強い人

―臼井さんよろしくお願いいたします。早速ですがコロナウイルスにより厳しい状況が続く中、臼井さんが考える「強い人」とはどういった方でしょうか?

何事も現状を受け入れることができる人です。心理学で『受容』と言い、重要な言葉です。

受け入れられない状態になると何事もネガティブな方向に行きます。もちろん何かを変えていくことや作り上げていくことも大事なんですが、受容できないこと、つまりコントロールできないことに対し、頭や感情が惑わされないということが重要です。コントロールできることにチャレンジをしていくことが大切です。

まずは、今の環境を受け入れるということが未来を変えるスタートになります。

―トップレベルのアスリートは今できることを行うという思考が特に強いと思います。いつも自分に矢印を向け、感謝の気持ちを忘れないですよね。

そうですね。日本代表クラスの選手でも相手を打ち負かしたい、成り上がりたい、という考えで勝ってきた人は、いざ苦しい状況になった時に自分に矢印を向けることができない人が多いです。

逆に、甲子園や選手権に出ていないような(トップ層でない)選手でも、誰かを喜ばしたいという動機で試合に勝ったような成功体験をしている人は、自分の脳にその経験が焼き付いているので、感謝の気持ちを忘れないんです。

逆境になった時に今まで自分の勝利した経験が他喜力(=誰かを喜ばせるための力)によって不思議な力を感じた経験をしたことがあるかが一つポイントです。

本物の他喜力を実感するのは、ここ一番の時に使命感や役割意識を感じて発揮されると思います。その時にどういう顔をしているのか、ということは大切です。例えば苦しい状態になった時に、笑っていられるのか、冷静に応援団をちゃんと見て深呼吸が出来るか、などが他喜力を感じることが出来る瞬間でもあります。

―自信があるという状態のモチベーションを保つためには、応援の声を聞くことが大切に思えます。

そうですね。なかなか本人だけで気付くことは難しいですが、他喜力での成功経験をしていれば少しずつですが成長していきます。

自喜力(自分自身を喜ばせる力)で成功体験を積み重ねた人もある程度のレベルにいくことはできますが、更に上の超一流と言われるレベルへ行くことは難しいです。誰かを喜ばしたいという気持ちが人間の本来持っている能力を最大限引き出す源になります。

例えば、駒澤大学苫小牧高校野球部の話であれば、外部からの批判の声など耳にすることで、「だって雪のせいで練習が出来ない」「どうせ自分達は」「そうは言っても北海道代表は甲子園で優勝の前例がない」などを口に出してしまいます。

私は講義の中で、「だからこそ」という接続詞が、新たなアイデアを生み出し、強い使命感を引き出すという事を指導しています。

「でも」「だって」「そうは言っても」「どうせ」という接続詞は、ネガティブな言葉に繋がりやすいんです。一方、「だからこそ」と「どのようにすれば」という言葉はポジティブな言葉と繋がり、脳に問いかけることでプラス思考に変わります。

有名になった代表例が「雪上ノック」だと思います。今までの練習も「滑りやすいから、体幹を使って重心を落とせる練習ができる」などの欠点だったことが逆に長所や武器になるように考えます。

野球界で、今まで雪の積もった上で守備練習をするという発想になったことはありますでしょうか?

そうした思考になることで今までにないものが生まれます。つまり無から有を生み出すわけです。

冒頭でお話したように、受容するためには自分が感じる欠点や問題点と向き合うこと。そして、プラスに転ずる言葉を使うことで、欠点や問題点を長所に変えてしまうんです。

そうすることで、問題解決に向けて自然と考え、主体的に行動するようになっていきます。

他喜力・成信力が発揮されるとき

―臼井さんが今までお会いしたアスリートで、特に他喜力や成信力が強かった方、印象に残った方を教えてください。

そうですね。2名お名前を出すとすると、ソフトボール日本代表の上野由岐子さんは大切にしている言葉として精神力=成信力と自ら書いておられるように、すごく強い方だと思いました。彼女は2006年に伝えた言葉を今でも大切にしてくれています。

そもそも北京オリンピックの時、日本がアメリカにソフトボールで勝てると思っていた人は、ソフトボール関係者でも少なかったと思います。日本戦までのアメリカ投手の防御率は0.00なわけですから笑。そんな中でマウンドに立ってアメリカに向かっていくわけですから、成功を信じられないとできませんよ。

彼女は北京オリンピックで金メダルを獲った後も、特に他喜力や成信力が強く響いたみたいです。北京オリンピック後にバーンアウトしてしまい、東京2020にソフトボールは復活しないのでは?という状態の中で、目標やソフトボールを続ける理由が分からなくなってしまったんです。

そこで、東京2020でソフトボールを復活させ、金メダルを獲得し応援する方に感謝を伝えたいという目標と目的を掲げました。女子ソフトボールと男子の野球が手を結んでPRしたことも記憶に新しいのではないでしょうか。まさに「どのようにすれば」です。

そして本当に、野球とソフトボールが東京2020で復活し、上野選手は金メダル獲得に向けて練習に取り組んでいます。

もう一名は福岡ソフトバンク、千葉ロッテで投手として活躍した元プロ野球選手の大隣憲司さんです。

彼と最初にお会いした時は、嬉しかった経験は「完投した時に褒められた」と自分が中心の自喜力状態でした。「負けるもんか、なにくそと思った時に、体からパワーが湧いてくる。誰かを喜ばしたいという意味は頭ではわかるけど、強いピッチャーにはなれないような気がする」と彼は話していました。

その後、彼は黄色靭帯骨化症という難病を患いました。この時、難病にかかったことを自ら広めていきました。その結果、「大隣さんが頑張るなら僕も頑張ります」というような大隣選手を応援するメッセージが難病で苦しむ子どもたちから届きました。

そこで初めて自分のやっていることが誰かに感謝されることなんだと気付き、実感する事ができたんです。

病気を克服した後も彼は肘にメスを入れ長期間第一線から離れますが、どんな時でも、誰かを喜ばせたいという気持ちで苦しい環境を乗り越え復帰しました。

だから、「喜ばせたい」という対象があることによって「どんなことでも絶対に成し遂げる」という気持ちを知ること、気付くことが大切です。そして、成功体験として自分の物にできれば、他喜力は自然と出てくるようになります。

それが自然に身についたからこそ、復活した前例がない難病になってもそこから日本シリーズで勝利投手になれたのだと思います。

上野さんにしても大隣さんにしても、見ているだけで多くの人が感動したわけです。こういった選手たちが言葉を使って何かを発信したらとてつもない影響力があるわけです。

今できることを

―今、さまざまなアスリートがSNSを通じてメッセージを配信していますが、こういう時だからこそ、メッセージをたくさん発信してほしいという願いはありますか?

リレーのように繋げることはすごく大事なことだと思います。一昔前ではこういった取り組みはできなかったことですから。むしろ、この状況になったことによって、絆を深めるためにSNSなど利用すれば、一体感が生まれるチャンスになりますよね。

またアスリートとファンの間でも良い関係性がつくれると思いますよ。アスリートが特に励みになるのは、自分が誰かに影響を与えられていると思った時でもあります。この時期だからこそ、アスリートができることを、SNSを通して情報を発信していくべきです。

想いは伝え、繋がっていかないと文化になりません。

チャンス=タイミングなので、このアスリートの取り組みも、スポーツを日本の力に、スポーツを日本の文化にしていくという使命を果たすこと、アスリートの価値を高めていく良いタイミングだと思います。

―今、就職活動ができず、非常に困っている学生が多くおります。せっかくの機会なので学生へアドバイスをいただければと思います。

人間の脳はプラス思考の状態で制限がかかるとアイデアが生まれてきます。例えば、自分が手を上げて話をしたい時、オンラインで会話をするときは、画面で相手が映っていますよね。あとは、音声がある。もし、声を出さずに自分が手を挙げていることを知らせたい場合はどうしますか?

そうです。アピールしますよね。立ち上がるとかタオルを振るとか笑。

つまり、声を出す以外の別の方法を見つけるために、色んなことをしなきゃいけなくなるわけです。「●●しちゃいけない」ということになると、人間の脳は今まで自覚してない別の何かに気が付くことができます。

「なんで俺たちの時に・・・」と考えるのではなく、制限が掛かったことによって、今までの就活生と違って新しい発想やアイデアが生まれてくるチャンスだと思います。そして、新しい発想やアイデアを生むことは今後の日本において必要な力だと思います。

就職がゴールではありません。

この状況でも、就職活動を通じて何ができるかを考えることが、社会に出て必要とされる人財になりますし、高いゴールを目指して就職活動することの価値が上がるときだと思います。

特に、運動部の方は、年齢の制限なくコミュニケーションをとることに慣れていると思いますし、今までを壊し、新しい取り組みをすることに躊躇なく受け入れることができます。社会に出て必要なことを自然とすでにやっているという方が多いと思います。

スポーツは常に0対0からはじまります。自分一人だけが就職活動に困っている大学生ではなくみんな同じです。

今を受け入れて、何ができるのか。自分を見つめなおし、考える時間ができたことをプラスに考えてほしいと思います。そして、困ったらスポーツフィールドさんへ連絡すればいいのではないでしょうか(笑)

―ありがとうございます(笑)最後に、今の環境を受け入れ、どのようなことをしたら良いと思いますか?

受容出来ている状態は、今の状態がどういう状態なのかを理解していることです。これは、今の状態を具体的にして、書き出すことで理解しやすくなります。よく間違いとして、マイナスの状況を受け入れ、分析することと認識されてしまうのですが、そうではありません。

例えば、8月に38度の暑い日が10日間続くとします。紙に「38度の日が10日間続いている」と書くか、「猛暑が10日間続いている」と書き出すとどちらの方がつらく感じますか?

「猛暑」と記載ある方がつらい日が10日間続いていると感じますよね。つまり、「猛暑」という言葉とマイナスな感情が伴っている訳です。

実際、日本をはじめ世界中でものすごくマイナス思考になっていると思います。これはなぜかというと、コロナウイルスの情報が具体的にわかりやすく報道されているからです。朝からやっている情報は、●●(場所)で感染者何人や死亡者何名、先月と比べてというマイナスな状況を事細かに具体化し比較し考察しているからです。そして、マイナスな情報だけが脳に残ってしまう。

「不安という現実はない」という言葉がありますが、そもそも、不安は、起きてもいない未来を想像して、結果を考えることで起きるもので、過去の経験などから、失敗するイメージや自分の望まない結果(未来)を想像することで、不安になってしまうんです。だから不安は未来にしかありません。そして、脳でリアルに描いたものは現実になってしまいますから、結果として『不安』=『その通りの結果』になります。

逆に、夢を具体化する、夢に数字の日付を設定すると長期目標になると言うじゃないですか。日付を付けると現実になるとか。

だから、今こそ夢に日付を設定して、長期目標に向けて、プラスのことを具体化していくように一日を過ごしていく事が重要だと思います。そうすれば、変化を楽しみ毎日ワクワクした日々を過ごす事ができると思います。

変化を楽しむということは変化に対応しているということですから。