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2018年ドラフトが迫る!プロ野球ファン必読。楽天の現役スカウト愛敬氏が語る、スカウトの裏側。

GUEST:愛敬 尚史(あいきょう ひさし)

元プロ野球選手。東北楽天イーグルスの球団スカウトとして活動している。


本日は、東北楽天ゴールデンイーグルスの球団スカウトである、愛敬さんにお時間頂戴しました。スカウトの立場から、採用、育成の観点を話していただき、スポーツ界ならず、教育界、採用界にも非常に興味深い話となりました。

※本記事はnote移行前の旧SPODGEで2018年10月10日に掲載した記事になります。


スカウトの道へ


―世間がドラフトで賑わうシーズンになってきましたが、まず始めに愛敬さんがスカウトとしての道を選ばれた背景について教えてください。

楽天イーグルスを最後に、現役を引退してからは、楽天ジュニアのコーチを2年間やっていました。その後にスカウトをやり始めましたので、2012年からですね。シンプルに言えば、そのタイミングでスカウトのポジションに空席が出たことが大きな理由です。

ただ、スカウトに入る前に私が経験した、ジュニアコーチとしての2年間はとても貴重でしたね。当時、小学校6年生の佐藤世那選手(※仙台育英高校から、現オリックスバファローズ)とか、西巻賢二選手(※仙台育英高校から、楽天イーグルス)は、当時楽天ジュニアに所属していて、私がコーチをしていました。

東北6県のお子さんたちを預かっていたので、全部で900人くらいいたんじゃないですかね?とにかく心身ともに大変な仕事でした。

―アカデミーのコーチとして、一週間のスケジュールはどういったものでしたか?

まず、楽天ジュニアのアカデミーでは、月曜日から金曜日まで毎日授業がありました。基本的に仙台では毎日開催されており、1軍の試合がないときは球場地下を使わせてもらいました、その他に別の場所でも実施していました。
また、地方では各地週1回ずつしか練習がないので、月曜日は青森で、火曜日は山形でと、と各地を転々としながらスクール運営していました。

コーチは総勢10名ほどいたと思います。
ちなみに、当時アカデミーのコーチをやっていた3人は今スカウトをしています。

―なぜ、引退した選手がアカデミーのコーチに就かれるケースが多いのでしょうか?

親御さんからしたら、つい最近まで現役で活躍していた選手が子供に野球を教えてくれるとなると嬉しいですよね。

一方で、引退した選手に関しても、特に社会人経験があるわけではないので、アカデミーのコーチという社会人生活を始めながら、日報の出し方とか、メールの打ち方とかを学ぶことが非常に貴重な機会になると思いますので、互いにメリットのある第二の人生なのだと考えております。

ただ、何度も言いますがアカデミーの仕事はやりがいがある一方で、非常に大変ですけどね(笑)だから、スカウトに転身した際には、アカデミーの重責から解放されてほっとした記憶があります。


選手の人間性を見る


―お話しぶりから、アカデミーのお仕事の大変さが伝わってきます(笑)その後、またも未経験ながらスカウトに転身されたわけですが、どのようにスカウトしていたのでしょう?球団スカウトとして統一された、有望選手を選ぶための基準や尺度はありましたか?

そういったものが設けられているわけではなく、あくまで自分が獲りたい選手を選んでくるというが原則です。
実力が拮抗する二人の選手がいれば、自分の球団所在地域の選手を優先することはありましたけど、基本はプラスになる選手を獲るということを崩さず、ぶれずにやっていると思います。

―チームにプラスになる選手というのは、技術的な部分や身体能力に優れるだけではなく、例えば練習を頑張っているかなど、一見して分かりづらいけど貢献度の高い選手、という場合もあると思うのですが。

大いにあります。
高校生はまだしも、社会人の選手をスカウトしてくる場合は、人間性が伴わないと獲れません。引退後に球団に残れる可能性がありそうな人を獲る、というのが多少なりともあります。野球しかできない選手なら、野球がだめならもうそれで終わり。
そうではなくて、その子が球団にとってなにかしらの面で力になってくれそうかという点でスカウトすることが、非常に重要な観点の一つだと信じています。

―愛敬さんは投手でしたが、他のポジションの方を獲得するときにはどのようなことに気をつけていくべきだと考えていますか?

自分が経験したことのないポジションの選手を獲るというのは非常に難しく、難易度が高いと思います。
先ほどの話と重なりますが、やっぱり一番大切になってくるのは、「人間性」ですよね。一番大変なときに努力ができるかどうか、諦めずに挑戦することができるかどうか、が非常に重要になってくるポイントだと思います。常に一生懸命取り組むことができるかどうか、切り替える力、なども必要です。挙げてみると、スキルより内面ばかりですね。

当社スタッフとお話しする一面(右が愛敬さん)

―楽天イーグルスの選手や愛敬さんの周囲では、現在そういったことを体現されている方は例えばどなたですか?

岸投手とかはそれに値すると思います。人間性がきちんとしていますね。あとは銀二選手ですね。彼は本当に頑張り屋ですし、努力家です。あとは、松井稼頭央選手ですね。あれだけの実績を残しながらも、最後の最後まで努力される人ですね。人一倍努力すると口で言うのは簡単なのですが、彼は背中で語るというか、自分自身がまず一番トレーニング、努力されています。そして、私たちスカウトや他のスタッフのことも良く覚えてくれていて、いつも丁寧にあいさつをされます。その人間性は本当に素晴らしく、心を打たれますね。

守備の達人、藤田選手も常に大変な努力をしていますよね。そういう人は、結果として球界に長く残っていきますし、活躍していきます。体のケアもできていますし、野球を私生活の中心にすることができている人は、継続的に活躍する人の共通点です。野球だけ出来ても続けるにはきついですよね。

―楽天イーグルスのスカウトチームは、民間企業で言う支店長のような形で、全国の各エリアを担当されているということですが、それぞれの地域で優秀だと思う選手がたくさんいる場合、どのように目線合わせをしたり、最後に絞ったりするのですか?

私たちの場合で言うと、それぞれ良い選手を各エリアで探してくるのですが、良い選手がいると聞いた場合は、地域を跨いででも他の地域に出向いてその選手を自分自身の目で見て判断するという形をとっています。
そうすると、自地域の選手との比較ができますね。いわゆる企業の採用チーム全員で面接するということですね。みんなが見ていれば、目線を合わせて議論し、判断していくということですね。


引退後の選手たちについて


―そうしてスカウトして獲得したのち、入団後に活躍される方もいる一方で、なかなかうまくいかなくて引退される方もいらっしゃると思いますが、皆さん引退後はどんな道に進まれることが多いですか?

まずは、皆さん野球関係の仕事をしたいといいますよね。しかし、引退後にその球団に残れるのは全体の2割くらいだと聞いています。
最近は、民間の企業に就く人もいますし、あとは、実業団や独立リーグなどの選手としてもう一度やる人もいます。でも、大半は民間企業ですね。楽天に関しては、アカデミーが雇用の受け皿になっているので、そういったケースでの球団関連事業への残り方もあります。

私の担当選手で言えば、自分がスカウトとしてチームに入れたわけですから、引退後のサポートをしたいと思うのが自然ですし、実際に力の及ぶ限りサポートしますよね。そのときにとても重要なのは、選手に人間力がいかに備わっているか。これがしっかりしていないと、就職活動は絶対にうまくいかないですよね。就職に限った話ではないですが。

―引退後もちゃんとやっていけそうかどうかは、スカウトする段階でもチェックしますか?

もちろん、チェックします。特に社会人リーグからスカウトする場合は重点的にみます。

高卒選手や大卒選手と比較すると、選手としての時間はどうしても短くなりますから、より早く訪れる引退の時期を見据えて、人間力がしっかりしているのかが気になります。そこが中途半端な姿勢なら、本人のためにも獲らない方がいいと思っていますし、それは選手本人にも伝えます。

スカウトは、「獲らない」選択をするのも仕事だと思います。
立派な大企業で、福利厚生に恵まれて社会人野球ができているのに、あえて実業団をやめてプロの世界に入ることをしなくてもいいです。もっと言えば、就職の選択肢が幅広い上位大学でプレーしていた大卒選手も同様です。より恵まれた企業に就職しやすいわけですから。
また、高卒でプロの世界に行くということは、それはそれで相当の実力がないと難しいと感じますし、選手の将来を考えていたときに大学進学を薦めるケースもあります。

―スカウトや、指導者になるのはやはり相当な知識や努力が必要ですね。

そうですね、現役をやめてすぐに指導者になる人は最近減っているみたいですね。

最近は野球の解説者になってから指導者となる傾向はあるみたいです。野球というスポーツを客観的に見ることができ、どんな場面があったらどんな展開になるのかとかそういった意味では非常に勉強になるみたいですよ。

―ありがとうございます。スポーツをやってきた方のキャリアを支援するという立場では近い目線でお話を伺え、一野球ファンとしてはスカウトの裏側の想いが知れてとても楽しいお時間でした。もうすぐドラフトですが、100回記念大会で大盛況に終わった甲子園で活躍した選手たちはもちろん、大学や社会人を含めた今年のドラフトも楽しみにしています!