礼儀礼節こそ、人を大きく成長させる。~JKJO(全日本空手審判機構)代表 酒井寿和さん~
GUEST:酒井 寿和(さかい としかず)
「一般社団法人JKJO(全日本空手審判機構)」、「NPO法人 新日本総合空手道連合会 武神」、「桜塾」代表を務める。また、『JFKO(公益社団法人全日本フルコンタクト空手道連盟)』の理事も務めている。
JKJO https://karate-jkjo.jp/
武神 http://karate-bushin.com/
桜塾 http://sakura-juku.com
JFKO http://fullcontact-karate.jp/
※本記事はnote移行前の旧SPODGEから2020年11月30日に掲載した記事になります。
空手人口が増える理由とは?
―酒井さん、よろしくお願いいたします。現在、空手界は大きく二つに分かれているとお聞きしましたが、歴史をたどれば元は一つの競技だと伺いました。
元々、空手は一つの武道でした。極真会館の大山倍達先生がフルコンタクト空手の道場を作り、フルコンタクト空手の歴史がスタートしました。今は伝統派と呼ばれる全空連(全日本空手道連盟)、そして、私たちがやっているフルコンタクト空手(直接打撃を当てる空手)があります。防具を着用するなど細かいルールはたくさんありますが、大きく分けて二つのルールがあります。
私はフルコンタクト空手の『一般社団法人JKJO(全日本空手審判機構)』という団体と『NPO法人 新日本総合空手道連合会 武神』、そして『桜塾』の代表をしております。また、『JFKO(全日本フルコンタクト空手道連盟)』の理事を務めています。
コンタクト空手界にはJBC(日本ボクシングコミッション)のように統括団体があるわけではなく、いろいろな連盟が存在しております。
―今、フルコンタクト空手の競技人口が増えているとお聞きしました。JKJO(全日本空手審判機構)はどのくらいの会員がいらっしゃるのですか?
約25,000人が所属していて、日本では2、3番目くらいの規模になりますね。一番年齢の低い方は3歳から空手を始めます。防具は身に付けますが、フルコンタクトで行います。
―多くのスポーツでは競技人口が減っている中、なぜ、空手の競技人口が増えていると思いますか?特に子どもたちを中心に増えていると。
近年は、礼儀作法について考える保護者の方が多くなりました。コロナウイルスの影響もあってか、子どもを「強くしたい」とお考えになる方も増えています。
入会アンケートでは、「しっかりとした礼儀を学ばせたい」、「大きな声で返事をする人になってほしい」と、空手への期待を記載いただくことが多いですね。
一方で、年齢が高くなるにつれて、競技人口が減っている現実もあります。若い選手たちが空手を継続してくれれば、もっと競技人口が増えますし、空手界が発展していくと考えています。
―多くの競技人口がいる中で、いわゆる「プロ空手家」はいらっしゃるのでしょうか?
大会で優勝し賞金だけで衣食住の不自由なく暮らしていける「プロ」はいないと思います。
基本的に大会では賞金などはありません。稀に賞金のある大会もありますが、多額の賞金金額ではありません。
ですから、多くは稽古を指導する「レッスンプロ」として活動している方が多く、道場で空手を指導し、月謝をいただく形が殆どです。
しかし、指導者としての道も険しく、レッスンプロとして活動するのか、就職をして選手として活動するのか、また、選手活動を辞めるかの選択しかありませんでした。空手を続けることでキャリアを築きづらいことが、年齢を重ねるごとに人口が減ってしまう要因かもしれませんね。今は、レッスンプロ以外の空手家は一般企業に就職し、続けられる範囲で取り組んでいます。
御社のように競技と仕事に対して就職サポートをしていただける話も、選手が競技を続けていくことができる一つの希望だと思いますね。
―空手選手はテレビなどメディアへ露出している機会が少ないと思っています。何か要因はあるのでしょうか?
今まで、空手は上手くアピールができていなかったと思いますし、我々フルコンタクト空手にはコミッショナー(統一された団体)がなかったことが最大の原因だと思います。
柔道は柔道連盟、剣道は剣道連盟と統一された団体がある中、フルコンタクト空手にはなかったものですから、どうしてもアピールをする場所がありませんでした。
(現在は全日本フルコンタクト空手道連盟JFKOができています)
今後は、PRなども含めて選手のために活動していこうと思っています。
―競技人口が増えている中、メディア露出が増えれば、空手界も大きく変化しそうですね。
最近、空手道場は比較的身近にあるものだと感じています。
昔は常設道場しかなかったのですが、公民館や小学校の体育館などに開かれる道場が増えるなど、空手に取り組む環境が改善しています。環境の改善が、競技人口が増える追い風になっていますね。女の子も男の子に匹敵するくらい増えています。
―女の子もフルコンタクトで行うのでしょうか?
もちろんです!小学生の場合、女の子の方が強かったりしますよ。今思えば、女子選手が増えていることは競技人口に確かな影響を与えているかもしれませんね。
武道の精神こそ、人間育成に必要なこと
―日本特有の競技は「道」という漢字がついていて、神棚のある道場も多くあると思います。最近、空手を始める子や保護者達は空手を「武道」として捉えているのか、または、「スポーツ」として考えているのか、どちらが多いでしょうか?
空手は礼儀作法や「技を磨く稽古を通じて人格の完成を目指す」といった「武道」です。しかし、近年、空手はスポーツという感覚を持つ方が多いです。
ただ変わらないことは、礼儀作法はどの道場も一番大事にしていると思います。剣道、柔道、弓道といった「武道」でも礼儀作法は一番大事にされていると思いますよ。
―挨拶など、学校やご家庭でも学ぶ機会があると思いますが、道場ではどのように礼儀作法をお伝えしているのか教えていただければと思います。
これはスポーツ全般にいえることですが、試合前に挨拶をしますよね。空手の場合、必ずお互いが挨拶して試合を行い、挨拶をして終わります。一つひとつの稽古でも、挨拶を行いますし、先輩、後輩のある世界ですから、相手に敬意を表して挨拶をします。
特に空手の場合、礼儀作法に力を入れて指導している道場が多いんです。ですから、しっかりとした礼儀作法が自然と身に付くのだと思います。
一方で、最近では時代とともに指導者の指導法も変わってきていますから、幼い子にはより丁寧に伝えています。
―空手には「段位」がありますが、判断基準はどのようになっているのでしょうか?個人的に、強いだけ、礼儀正しいだけ、という考えではないと思っています。
仰るとおり、両方必要な要素です。もちろん強さも必要ですし、空手に取り組んできた時間も必要です。また、取り組み姿勢や礼儀といった精神面の充実も、段位取得には必要不可欠な要素になります。
ものすごく強い小学生が高位の段位を取得する事はありませんし。年月をかけ、技や心を磨くことでその選手に見合った段位を取得できるということです。
―フルコンタクト空手の試合では、勝敗はどのようにジャッジされるのでしょうか?
ボクシングと同じようにKO(一本)が一番良いですね。相手の戦闘能力を奪う状態、戦えない状態にすることがベストです。素晴らしい技がきまったら「技あり」もあります。
考える力が、競技者、人として大きく成長させる
―スポーツ界では、「ティーチング(答えを相手に教える事こと)」ではなく「コーチング(相手の中にある答えを引き出すこと)」が良いという考えが広がっていますが、酒井さんはどのレベルまでは「ティーチング」で指導するといったラインはありますか?
難しい質問ですね。正直、指導者によって異なると思います。
私の空手道場(桜塾)の場合、中学生から一般部として参加します。小学校6年生までは保護者のサポート(送り迎えや稽古見学)がありますが、中学生からは稽古に保護者の参加が不可能になるんです。
つまり、自分で考えて判断しなければならない環境、大人として見られる環境に切り替わるポイントとして、中学生になるときが一つのタイミングなのだと思います。中学生になり、自分で考えるようになった選手は実際に競技者としても成長します。
―なぜ、小学生と中学生の間に線引きしているのでしょうか?
小学生までは自分の意思ではなく、保護者の影響が強いと思っています。ただ、中学生は自分でやる/やらないの判断ができますし、自分の特徴を考えて空手に取り組むことができます。自分の長所/短所を見つめ、長所を活かすことは社会人になっても必要な力ですし、大事なことだと思うんです。中学生の時からこういった人間育成を目指すために、大人として考えているんです。
―なるほど。指導に加え、空手道場を経営している方の努力は凄いと思います。
どの競技も一緒だと思いますけど、みんなが努力をして競技のレベルを上げていくことをしていかないとどんどん衰退していきますよね。
選手達がより良い環境になるよう、フルコンタクト空手が歳を重ねても継続できるような仕組みをつくっていきたいと思います。
―今後のフルコンタクト空手が楽しみですね。酒井さんありがとうございました。