「全てはお客様に感動を届けるために」~登美丘高校ダンス部総監督 振付師 akaneさんの想い~
GUEST:akane
振付師。登美丘高校ダンス部の総監督。アカネキカク主宰。
3歳のダンスをはじめころからダンススクールに通い、登美丘高校ダンス部として自身も活動していた。大学2年の時から登美丘高校ダンス部の振付を担当する。
2017年に日本全国からの注目を集めた「バブリーダンス」をはじめ、映画『グレイテスト・ショーマン』主題歌「This Is Me」の日本のプロモーションビデオの制作・振付を担当するなど活躍する。
※本記事はnote移行前の旧SPODGEから2020年8月12日に掲載した記事になります。
強豪ダンス部の歴史
―登美丘高校ダンス部はakaneさんが部に昇格させたとお聞きしました。どんな思いからダンス部を設立しましたか?
私が登美丘高校に入学した当初はダンス同好会として活動をしていました。
一度は入ったのですが同時に昔から通っているダンス教室もあったので辞めようと考えていました。友達から「私が自由にやって良いから辞めないでほしい」と言われ、「せっかくやるんだから本気でやろう!」という話をして、高校2年時に部活動として学校に認めてもらえました。
―高校生の時から「ゼロからイチを作る」ことを経験しているのはすごいですね。
もともと、同好会があったので顧問の先生もいらっしゃいましたし、私は紙を書いて提出しただけのようなものです。逆に、同好会を立ち上げた先輩の方が大変だったのかなと思います。
私がダンス部を始めた時はまだ本気で打ち込む感じではなく、今のようなダンス部は後輩たちが作り上げたものです。
大会で結果を出すためには、先生をはじめ様々な方の協力が必要であることを理解し、主体的に校内のごみ拾いや挨拶運動、学校の規則はダンス部が率先垂範で守るという取り組みをしています。
今は学校内での影響力が大きいので、ダンス部が規則を守らなかったら周りにも悪影響があるので、他の部活以上に自主・自律が求められます。
特に、テレビ出演など目に触れる機会が多い部活なので、学校の代表として見られているということを自分たちで理解しているようです。
今の子たちのほうが、私が高校生の時より凄いと思いますよ。
―akaneさんは大学生の時から高校生の指導に携わっていますね。
私が大学2年の時に、2つ下の後輩から直々に「指導をしてほしい」とお願いされて引き受けました。
ダンスは指導者がいないと難しく、当時夏休みやお正月に練習を見に行った時には悲惨な作品だったんです・・・。
私自身、高校生の時から作品を作って指示を出していましたし、OGとしてコーチ登録だけでなく、もっとしっかりと取り組んだ方が良いと思い指導を始めました。
―高校生を指導することは大変難しいと思います。
年々大変だなと思っている部分がありまして・・・今の高校生とのギャップを感じることがありますよ(笑)
年齢が年々離れていることもありますが、自分が当たり前に思っていることも変わっています。
例えば、目標について今まで私個人で一度も決めたことはなく、みんなで話し合って決めるのですが、自分たちで決断、判断しなければいけないことを「決めてくれ」という感じで、受け身になっていることもあります。そんな時は「誰の目標なん?」と返しますけどね。笑
おそらく、今まで先輩たちが大きな目標を達成しているので、新しいチャレンジを「新しくない」と感じてしまうのかもしれません。
でも、そんなことは関係なくて、先輩は先輩、自分たちは自分たちと、自分がやり遂げて「達成した」ということが一番大事です。
今の子たちは、いろんな媒体で発言することが当たり前になっているので、良い悪いは別として、本来は自分の意見を言える子たちだと思います。関わり方次第ですね。
お客様に感動を与えるために
―akaneさんが指導する中で考えている「プロフェッショナル」について教えていただけますか?
私が生徒たちに求めるのは「観ていただけるお客様のために作品を作る」ということです。
ダンスを楽しむことは大切ですが、それを一番にしてしまうと自己満足で終わってしまうと思っています。観ていただく方々の気持ちを一番に考え、自分達を客観視することを心掛けるように伝えています。
ダンスは野球やサッカーのように点数を取ることで勝敗が決まるといったようなことはなく、審査員の評価が結果となります。
だからこそ、みんながやってきた過程(練習や努力)が見えてくるようなダンスをしないとダメだと思います。良い作品は全員が同じ目標に向かって努力している背景が見えてきます。必ずそれは伝わります。審査員の方はAIではなく「人」です。
舞台での一瞬に懸けることがお客様の感動を生むと思っていて、特に高校生の部活動は一瞬に懸ける想いが強いから、お客様も観ていてすごく感動するんだと思います。高校生には高校生の、絶対大人にはできないパフォーマンスがあるので。
―野球やサッカーとは違い勝ち負けの判定に唯一解が無いと仰っておられますが、高校ダンスの採点基準はどのように行われるのでしょうか?
基本的な採点方法は、テクニック、表現、振り付け、衣装の点数になります。ただ、私が最も重要だと思っているのは「誰に審査されるのか」だと思っています。
ダンサーにおけるプロとアマチュアの境目ってわかりますか?お金を貰っていれば「プロ」と思われるかもしれませんが、プロの中でもダンススキルは大きな差があります。
プロダンサーになるための基準が明確ではありません。そして、大会の評価基準も細かく明記されていない。個人的には、ダンス界の課題だと思っています。
だからこそ、審査員が「どういう結果を出した人なのか」、「どういうダンスをするのか」、「作品の作風はどんなものなのか」という背景が重要だと思っています。
―登美丘高校は、数あるダンス部の中でも優勝・準優勝など関係なく、日本そして世界を大いに盛り上げていただき、影響を与えたと思いますが。
その自信はあります。結局はお客様を沸かせた人が勝つと感じていますね。自分たちが納得いくものをちゃんと披露してお客様から拍手をもらえるような作品であるかが重要です。
過去、勝つことにこだわるあまり、お客様ではなく審査を考えた作品を披露したことがありました。全く会場は沸かず、悔しい思いをしたことを今でも覚えています。
でも、それがあったからこそ、審査とか関係なく、まずは会場のハートをゲットできるかを一番に考えるようになりました。
最高のダンスができたとき、一度会場が静まり返るんですよ。その後、一気に爆発したような拍手や歓声が響きます。
踊っている生徒たちはお客様からの歓声をダイレクトに感じるので、あの快感をもう一度味わいたいと思って厳しい指導にもついてきてくれていると思います。おそらく、私以外の指導者の方も同じだと思います。
多感な時期の子たちをまとめるには、一番いいものを作ったらいいですし、この人についていけば間違いないと生徒に思わせることが重要だと思いますね。そのためには生徒たちに最高の作品を作ってあげることだと考えています。
―akaneさんが指導の中で大切にしていることはありますか?
嘘を付かないことです。下手だったら素直に「下手やん」って言いますし、かっこよかったら「かっこいい」と伝えています。思ったことを素直に伝えるということですね。
それこそ部活動以外でもおかしいと感じたことは指摘や指導しますし、生徒も私の考えに疑問を感じたら質問してきます。お互いが腹を割って話し合いが出来ていますし、それがチームの中で当たり前になっていると思います。
廊下と屋上が練習場所
―登美丘高校は公立高校ですよね。私立の高校と比較すると部活動の環境面では厳しいと思います。
そうですね。私立と比べると練習環境や部員勧誘など、部活動の環境は良くないと思います。
もちろん推薦などで集めることもできません。ただ、私たちは負ける気がしません。
環境なんて関係ないですね。
ダンスは団体競技なのでひとりが上手いだけでは全く意味がなく、全員で作品を作らなければいけません。
踊る人だけでなく、特に指導者によって結果が左右します。また、作品力も無いと勝てません。登美丘高校はダンスを作る人はプロ(私)ですし、生徒全員が本気の努力をしている。負けるはずありませんよ。笑
生徒が勝ちたいと言うのであれば勝たせてあげるのが私の仕事です。
―逆境の方が燃えますか?
もちろん環境そのものが良くなることはベストですが、環境が整えばハングリーさがなくなるとも思います。
私達の普段の練習場所は廊下か屋上です、部室もありません。荷物や備品は学校に許可を頂いて廊下の隅に置かせていただいています。
休日の練習場所や長期休みの間の練習場所(体育館等)は、生徒たちが自分たちで確保して、大型バスが必要な時も生徒たちが手配をしています。貴重な経験をしていると思います。
私立と比べると環境は劣りますが、劣るからこそハングリーになると思いますし、貴重な経験ができると思います。廊下を使えれば体幹トレーニングもできます。
普段は屋上と廊下で、必要な時に外部施設を借りることができれば、この環境でも全国制覇はできます。
―環境に言い訳せず、できることを探すことは重要ですね。
私は生徒を大人と思って接しています。私の教え子なので、言葉使いや態度などきっちり指導していますし、思ったことを素直に伝えています。
自主公演も生徒たちがやりたいと動き出したのでサポートしました。
元々は文化祭で3年生は最後のダンスを披露していましたが、高校生活の集大成にするにはものすごくもったいないと思っていて、5年前から自主公演を始めました。
環境がなければ自分達でそういう場を創れば良いという発想です。
舞台や台本をはじめ、舞台監督、照明なども全て自分たち(高校生)で手配します。
生徒たちには、大会に出場した、しない関係なく、全員で作ることに意味があって、大会が全てではないことを自主公演では感じてもらいたいと思っています。
そして社会に出ても活躍できる人になって欲しいんです。
―akaneさんは先生より先生みたいですね。一方で、様々なVTRを見たり、お話をお伺いすると生徒の皆さんと距離が意外と近い存在だとも感じます。
生徒は私のモノマネをしたり、いじりますからね。面白かったら許しますが、基本面白くないので怒ります。笑
関西人としておもろないのはあかんでしょ?
いつもTVでクローズアップされるところは怒っているシーンなので、周囲からは「厳しい人」と言われますが、オンとオフははっきり分けています。
運動会やドッジボールなどをして部員間の交流も図っています。ダンス以外の生徒の一面も見れますし、みんな楽しみながらやっています。
いつも大変な練習の中でチームであることを再認識できますし、こういった生徒との交流があるから楽しくできていると思います。
私が一番怖いと思っているのは、お客様です。
お客様は一番素直な反応をします。良いと感じなかったら拍手をしない。もしかしたら反応もないかもしれません。私自身もステージでお客様の反応を経験しているからこそ、怖いとわかりますし、練習量とお客様の拍手は比例すると思っています。
本当に怖い思いをしたくない、失敗をしたくないと思うのであれば、今、頑張りなさいと伝えています。
お客様をイメージしながら踊ること。時にはお客様を招いて披露してみること。練習も工夫して行うこと。試行錯誤しながら練習に取り組むことの大切さを伝えています。
私も理不尽なことを言うこともあります。例えば、練習の終わりに指摘したことを次の日の朝一で「なんでまだ出来てないの?」とか・・・・。
たぶん生徒からしたら、「いやいやいや、まだ数時間前に言われたことなのに・・・」って思っているかもしれません。笑
ただ、純粋に本番で最高のダンスをしてもらうために、私は言っています。
振付師akaneさんの想い
―振付師、総監督として活躍されていますが、振付師を選択した理由はありますか?
もともと私は身長が低く、バックダンサーの道はありませんでした。アーティスト中心に考えなければいけないので、ダンサーの道ははじめからないかなと思っていました。
振付師は登美丘高校の指導をするようになって、裏方を経験するようになってから自然とその道に進みました。自分に向いていると自然と思うようになりましたね。
でも、そこに本気にならないと自分に向いている向いていないはわからないと思います。
―振付師はキャリアの道筋が見えにくい職業だと感じていて、選択した時は相当の覚悟を持っておられたと思います。
私はダンスしかやってきてないから、この道しかなかったのかなと思います。勉強も不得意ですし、それ以外は何もできないですよ。笑
今は、ありがたいことに色々なお仕事をいただけるようになりました。普通にただダンスだけをやっていてもそこまで稼げないと思います。
今はネットの時代で、新しいことにチャレンジしている人が増えていると思います。ユーチューバーなんて、少し昔であれば誰も稼ぐことが出来るなんて想像もしていなかったと思います。今は工夫して稼ぐことのできる時代なので、自分から0を1に出来る人が活躍して稼ぐことができると思います。
私は振付師としてまだまだ未熟です。いろいろと工夫をしてもっと新しいことにチャレンジしていきたいと思っています。
―最後に今後の目標をお聞きできればと思います。
ネットを使い工夫をして稼ぐことも大事だと思いますが、結局は人間なのでリアルに勝るものはないと思います。リアルな良いものを作れる人が今後も活躍していくと思いますし、残っていくと思います。
2025年に大阪万博を控えていますが、今後テクノロジーの発達はもっと凄くなっていくと思っています。しかし、結局はリアルで体験したこと、見たことが重要だと考えます。
これからも誰かの心に残る作品を作っていきます!