部活動は社会に必要なものすべてが経験できる。競技未経験指導者の部活動の考え方 ~箕面自由学園高等学校 チアリーダー部監督 野田一江~
GUEST:野田一江
箕面自由学園(みのおじゆうがくえん)高等学校 チアリーダー部監督
京都堀川高校音楽科から同志社女子大学学芸学部音楽科を卒業後、クラリネット奏者として活動。
25歳から音楽の非常勤講師として箕面自由学園に着任した。1991年、チアリーディング部創部以来指導を続け、「日本選手権」での9連覇を含む、全国優勝30回以上の常勝チームを作り上げる。
第2回世界選手権大会女子部門ヘッドコーチ、第3回ジャパンコーチズアワード特別賞を獲得している。
目次
■未経験は強みになる
■常勝チームになるためには
■部活動は社会の予備校
■伝統を守る為に
競技未経験ながらチア部の監督に就任し、全国優勝30回以上のチームを作った野田一江さん。
勝ち続けるチームになるには「ある思い」があった。
常勝チームを作る秘訣や部活動のあり方をお聞きしました。
※本記事はnote移行前の旧SPODGEから2022年12月16日に掲載した記事になります。
未経験は強みになる
ー野田さんはチアリーディング(以下:チア)の経験なしで指導者に任命されたとお聞きしました。当時の心境はいかがでしたでしょうか?
私は25歳で音楽の非常勤講師として箕面自由学園に着任しました。
当時のアメフト部の監督から「アメフト部にはチアが欲しい。発声なら指導できるだろう」と言われ、指名いただきました。
チアの経験はありませんでしたが、折角の機会ですので「やってみよう!」と思い、手を挙げました。
総勢11名の未経験の生徒、そして未経験の指導者でのスタートでした。
ーこれまで数多くの成績を収めていらっしゃいますが、全国で勝てると感じ始めたのはいつからですか?
創部6年目の5月に開催された全日本選抜選手権(高校・大学・社会人を含めた大会)で優勝した時です。
「今まで誰もやったことのないチアリーディングにチャレンジしたい」と考えた演技を披露しました。チアの経験がないからこそ色々な発想が生まれ、自分たちが楽しいと思える演技でした。
この優勝が「自分たちはできる!」と自信になった瞬間であり、世界が変わったきっかけになりました。
生徒たちは「私たちは日本一なんだ」という意識を持つようになり、いい加減な生徒が真面目になったり、挨拶がきちんとできたりと生徒たちが見る見るうちに変わっていくんです。
優勝をしたことでチャンピオンとしてふさわしいチームになろうと思いましたし、生徒たちも変わろうと行動していたと思います。
ー野田さんのご活躍など、競技経験がなくても数多くの成績を残している指導者もいらっしゃいます。
指導者の競技経験はもちろんあった方がいいと思います。ただ、一方で固定観念があると良い指導ができないかもしれません。
もし、私が吹奏楽の顧問を担当していたらうまくいっていないと思います。
自分が受けた指導をバージョンアップしたコーチングをすることしかできなかったと思います。
経験がないからこそ、自由な発想が生まれますし、広い視野で考えられると思います。
ー今入部してくる生徒は経験者が多いと思いますが、未経験の生徒が入部することはありますか?
もちろんあります。16人のAチームメンバーにも未経験の子がいます。
メンバー選考に関しては指導者全員で決めています。
日本一になるために心を鬼にしてメンバー選考をしています。技術の高い中でも、唯一無二の技を持っている生徒を選びます。一つ突き抜けているものを持っている子は強いと思いますし、唯一無二の特技を持っているメンバーが16人集まることで、個性が光りますし、魅力が16倍になると思っています。
また、残念ながらAチームの選考に漏れたとしても、真剣にチームと向き合い、チームを支えることで、生徒自身が「私たちがいたから日本一になれた」と思ってほしいんです。
Aチームに入ることが全てじゃありません。サポートしてくれるメンバーがいること、感謝を持つことこそ大切なことだと伝えています。
ーチームワークなどチアにはたくさんの魅力がありますが、野田さんが特に感じるチアの魅力について教えてください。
チアにはオンリーワンのポジションがあり、カラダの大きさ関係なく活躍できることがチアの魅力だと思います。
元々アメフトの試合を応援するチームがチアの発祥と言われていますが、アメフトとチアは似ているなと思う時があるんです。
アメフトは色々なポジションがあり、大きい人でも小さい人でも、誰でも活躍できるオンリーワンのポジションがあります。
チアも同じで、誰でも活躍できる、輝けることがチアの素敵な部分だと思います。
常勝チームになるためには
ー今まで様々な大会で優勝を獲得されていますが、日本一が続くにはどのような理由があるのでしょうか?
「日本一になりたい」という気持ちが強いからだと思います。
2位ではダメなんです。
創部6年目、5月に初優勝し8月のJAPANCUPでも優勝すると思っていましたが、JAPANCUPでは優勝することができませんでした。
私の責任で優勝を逃してしまったのです。
生徒との距離が近すぎてけが人を起用したこと、実力のある下級生を起用しなかったことで本来の力を発揮することができませんでした。
その時から考えやメンバー選考も「日本一」にこだわるようになりましたね。
ー「箕面自由学園高等学校は日本一」という計り知れないプレッシャーがあると思います。
現在、私以上にコーチたちはものすごいプレッシャーを感じていると思います。私たちは勝って当然という期待の中で演技をしているので。
私も以前プレッシャーを感じることがありました。
10年以上前の話です。JAPANCUP10連覇を目指していた8月は眠れず、不安に駆られていました。「負けたらどうしよう」とネガティブなことしか浮かびませんでした。
指導してきた中ではじめてのことでした。
テレビ番組の追いかけが入っていたこともあり、「勝ちたい」が「勝たなければいけない」といつもの違う気持ちになってしまいました。
ー常勝チームには競技以外にもやるべきことが多く、大変だなと思います。
生徒もプレッシャーを感じていると思います。
ただ、ゴールデンベアーズの素敵なところはチーム想いのOGが多いことです。
大学生になったOGは自分たちの練習時間があるにも関わらず、オフの日に練習のサポートに来てくれます。
彼女たちはチームに対して何か貢献したいと考えて行動してくれているのだと思います。
現役の生徒たちは、自分たちは周りから応援されていることを肌で感じることができますから、お互い良い刺激になっていると思います。
部活動は社会の予備校
ーチアを通じて生徒たちにどのようなことを学んでほしいと考えていますか?
私は部活動の中に、社会で必要なことが全て入っていると思っていて、社会の予備校だと考えています。
3年間取り組んできたことはゆるぎないもので、人間として大きく成長していると私は思っています。
社会に出れば、苦しいことや理不尽なこともあります。その理不尽なことにも適用してプラスに変えていく力を部活動を通して伝えているので、生徒たちは社会で生き抜く耐性や自主性、適応力が身についています。ですから、社会に出ても「絶対に大丈夫だ」と思って送り出します。
また、部活動を通じて一生の友人を作ってほしいと思っています。
ただ、楽しいことをしている仲良しこよしの関係ではダメだと思います。
命を預け合い、同じ目標に向かって命を預け合いながら活動する中で生まれる絆は家族以上のつながりだと生徒には伝えています。
日本一というスローガンがあるからこそ、苦しいことも乗り越えられるし、人として成長できるきっかけが転がっていると思います。人生の糧を見つけてほしいです。
ー野田さんの考えの通り、部活動は社会の予備校だと思います。
スポーツを通じて「社会のいろは」を学んでいる人と、そうでない人には大きな差があると思っています。
お世話になっている方々にお礼状を出す際、宛名の書き方も知りませんでした。電話対応も「少々お待ちください」など言えない子も多くいます。
また、入学してきた生徒と話すとき、目を見て話せない子や謝ることができない、ありがとうも言えない子がたくさんいます。自分の気持ちを表すことができない子も多くいます。
私たちは、部活動を通じて礼儀やマナーを伝えていかなければいけません。時には、厳しく指導することもあります。ですが、こうした経験をたくさん得ることで社会に出たときに楽に感じることがあると思っているからこそ取り組むのです。
伝統を守る為に
ー野田さんの今後の叶えたい夢を教えてください。
将来私が引退しても、箕面自由学園高等学校 チアリーダー部がずっと日本一でいてもらうことです。
私は創部時からいるので、ある意味パイオニア的な存在のため、2代目を選択することに悩んでいます。
今は次の世代へのバトンを渡すためにという思いで、極力コーチに仕事を振り、私が前に出ないようにしています。
私は組織ではナンバー2が大切だと伝えています。ナンバー2は深い人間性が大切で、時には自分を抑えられないといけない状況もあります。
特に私は「あれやろう!これやろう!」と好き勝手動くので、今のコーチは大変だと思います(笑)
でも、この環境で力を養い、自信を持って組織を繁栄させることが一番だと考えています。
伝統校だからこそのプレッシャーはあると思いますが、コーチも生徒も一緒に成長してくれたらいいなと思います。