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東大、ゴールドマンサックスからアンダーアーマーへ。東大アメフト部監督も務める、ドーム取締役の三沢氏「本物のNCAAを知ってるのはドーム」「日本の大学スポーツの改革する」

GUEST:三沢 英生(みさわ ひでお)
東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科修了後、ゴールドマン・サックス証券、モルガン・スタンレー証券、メリルリンチ日本証券を経て、2013年、株式会社ドームに参画。
東京大学アメリカンフットボール部の監督も務める。


今回はアンダーアーマーでお馴染みの、株式会社ドームの三沢取締役にお話を伺いました。

三沢取締役は、東京大学、同大学院をご卒業の後、ゴールドマンサックス証券などを経て現職にご就任。昨今話題になりがちな日本版NCAA(10月22日付で「一般社団法人 大学スポーツ協会/UNIVAS」と名称決定)創設に向けて、本場アメリカの知見を自ら吸収しながら関わっておられ、スポーツ企業の重役の立場から語る日本のスポーツビジネスの価値、これからの大学スポーツの行く末などについて、貴重なお話を伺えました。

また、三沢取締役は東京大学アメリカンフットボール部の監督を務めていることから、現場で指導するからこそ見える運動部活動における問題点についてもお話いただきました。

※本記事はnote移行前の旧SPODGEから2018年11月30日に掲載した記事になります。



日本の大学スポーツの環境をもっと良くしたい。会社、個人としてサポートしている

そもそも大学という組織は、人間教育の場であると感じています。経済学、経営学、法学、その他ほかにもたくさん学問があると思いますが、座学だけが教育の場ではない。
少なくと、我々、大学スポーツの監督は、スポーツを通じて人間教育をしているわけです。だからこそ、経済学部の教授が大学からその職を任命されるように、大学の部活の監督、指導者はちゃんと大学から任命されるべきだと思います。大学側がしっかりと管理監督する必要があるとも感じています。

仕事柄、アメリカのカレッジスポーツに関わる機会がありまして、その都度アメリカの現状を目にしています。もちろん大学によって様々ですが、日本と比較するとアメリカでは、大学とメーカーが深くタッグを組んでスポーツに取り組んでいるケースが多いです。

日米の大学スポーツの構造や仕組みが違うことを言う前に、そもそも、アメリカの大学生と日本の大学生が置かれている環境が根底から違うと感じているんですね。
アメリカの環境の良さを知ってしまうと、日本の学生が不憫でしょうがない。本当にそう感じています。自分たちが現役だった「20年以上前のころよりは良くなった」という議論は全く意味が無い。アメリカの学生がこんなにいい環境でやっているなら、日本の学生にもそういう環境を提供してあげたいという想いが強いですね。

実際、我々ができることは、学生が自主的に成長することができる環境を作ってあげることくらいしかありません。こちらが技術や精神論をいくら教え込んでも、最後は学生が自ら成長したい、自ら学びたいという想いがあるかどうかに尽きます。ただ、環境だけは学生でつくることは難しいので、我々大人が作ってあげるべきだと考えているのですが。

でも、本当にアメリカと日本では、大学スポーツを取り巻く環境が全く違いすぎますよ。笑 アメリカの現状を知れば知るほど、尚更日本もどうにかしてあげたいって思いますよね?そういうことです。

現場にすべての負担がきている。今こそガバナンス改革のとき


―最近日本版NCAA設立が騒がれています。弊社も貴社も設立や運営の会議体に参加させていただく機会が増えています。

本当のNCAAを知っているのは正直、ドームくらいではないでしょうか。NCAAの会長をはじめとする多くの大学関係者、職員の方々と直接関係を築き、密に情報交換をしてきているのは私たちだけだと思いますよ。

確かに最近日本版NCAAの設立が、大学スポーツ界などで話題に上がっていますが、元々はアメリカの制度から来たものです。アメリカで約120年前にアメリカンフットボール競技において多数の負傷者が出たことから、ガバナンスを整えていく必要があるというところからアメリカでは設立されたんですよね。それが、日本でもやはり作るべきだろうと。

今、安全面などといったやるべきことが日本ではまだまだできていないですよね。したがって、私が監督をしているチーム(東京大学アメリカンフットボール部)は安全対策に力を入れ、費用も相当かけています。やれることは全部やった状態で選手たちには練習に打ち込んでもらいたいし、最優先で整えていますよ。勝ち負けよりよっぽど大切だと思います。

ただ、このことは本来個々のチームがやるんじゃなくて、大学がやるべきだと思っています。要するに、権利と義務の関係だと思っています。

ちなみにですけど、僕ら監督は大学から任命されているのではなく、OB・OG会から任命されています。大学の総長は、だれが監督であるかということだけは認識しています。
また、監督といってもボランティアですが、それも個人的にはおかしいと感じています。お金がほしいといっているわけではなくて、フットボールを通じて人間教育を行っている我々監督に対して、給料が0円というのもおかしい話です。

例えば、経済学部の教授をボランティアでやったりしないでしょ?笑

座学教育と、スポーツを通じての実地教育、どちらが優れているかといった議論をするつもりはありませんが、どちらも人間教育には変わりないですよね。両方を通じて人間教育していく必要があるし、どっちが大切というのもないんですよね。どっちも大切でどちらも対等に論じられるべきだと感じています。

この話は、アメリカからすれば100年遅れだけど、大学スポーツのガバナンスを整備する必要が大いにあります。

部活動を含めた学校スポーツ改革をするなら、まず大学だと考えています。そうすれば自然と、高校、中学のガバナンス体制は変わってくると思います。大学でモデルを作れば、高校中学に落としやすいですよね。
だからこそ、自分たちの役割は大切だと思って、使命をもって取り組んでいますよね。

―学業とスポーツの両立といった教育的見地、また大学スポーツが金銭的自立といった商業的見地にたった考えは良く見聞きしますが、プレイヤーファーストで大学スポーツの統治(ガバナンス)の観点からも推進すべきといったところでしょうか。参考になります。


絶対ロイヤリティはスポーツしかない。本当のスポーツが持つ可能性とは


そもそもスポーツビジネスというのは、ロイヤリティがとても重要で、ロイヤリティをいかに現金化するかという話が非常に重要です。

私は相模原の人間なので、神奈川県代表校応援するんですよ。野球であれば、横浜高校とか、東海大相模しか応援しません。極端に言えば神奈川県代表以外は応援しないんですよ。オリンピックだったら日本を応援しますよね。
アメリカやロシアを応援することはないと思います。世界中の人はそれぞれ自国を応援しますよね。

このロイヤリティに関していえば、車でいうとトヨタなんかはとんでもないマーケティング費用をかけて、消費者に向けた自社へのロイヤリティを高めようと努力していますよね。
私どもも非常に高いお金をかけてアンダーアーマーへのロイヤリティを高めようとしています。

でも、スポーツって、お金をかけずにロイヤリティを高められるのです。別に何もしなくても神奈川で生まれ育ったというだけで、神奈川県を応援しますし、日本に生まれ育っただけで、日本を応援しますよね。無料で、且つ絶対に裏切ることのないロイヤリティがスポーツにはあるわけです。

一方で、アンダーアーマーを使っている人は次にナイキを買うかもしれない。レクサスに乗っている人が次にベンツを買うかもしれない。絶対的なロイヤリティというのは基本ありえません。

スポーツにしかないロイヤリティをいかに現金化するかだと思っています。スポーツビジネスの根幹は、ロイヤリティを刺激することにあると考えています。

なので、大学へのロイヤリティを高めて、大学スポーツを盛り上げていくこと。在学校や出身校を絶対応援するようなカルチャーづくりが大学スポーツを盛り上げていくには必要なことですよね。


今後の、日本のスポーツ界は、ビジネスの世界でもリードしていける


今後の地域活性化も含めて、可能性は大いにあると思います。プロスポーツの領域もそうですし、大学スポーツの領域でもさらに拡大することはできます。スタジアム経営がうまくいくことで、球団が強くなって、そして地域の活性化につながる。
広島カープはそのいい例だと思います。自分たちでスタジアムを持っていて、地域に密着するという手法をとりながらファンを増やしていきますよね。

―プロも育成、教育が重要ですよね。

そうですよね。さらにいい環境で育成するにもビジネス力=お金が必要だと思います。いろんな仕組みを導入して、選手に対して練習したらうまくなるという環境を提供できるのかどうかというのは大切ですよね。
チームによっては、ファンの方のロイヤリティが高くてうまくいっているケースがあると、スポーツビジネスとして成り立ちますよね。だからこそ育成にお金をかけることができて、選手がより成長して強くなる。そうなっていくとスポーツの価値そのものはあがってくると感じています。

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