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「黄金世代」を育てた元サッカーU-17日本代表監督が語る、サッカーを通じた人間形成の極意とは。

GUEST:松田保(まつだ たもつ)

小野伸二選手や稲本潤一選手など、日本サッカー史に残る「黄金世代」を擁した元サッカーU-17日本代表監督の松田保監督。滋賀県近江八幡市出身。学校法人ヴォーリズ学園副学園長。


小野伸二選手や稲本潤一選手など、日本サッカー史に残る「黄金世代」名だたる選手たちをユース時代から育ててこられた、元サッカーU-17日本代表監督の松田保監督。2001年にS級ライセンスを取得された後、2003年よりびわこ成蹊スポーツ大学の教授およびサッカー部監督、滋賀県サッカー協会副会長・技術委員長、2010年同協会会長を歴任されている同監督にお時間をいただきました。
その卓越した指導・教育方針についてのお話から始まり、サッカーを通じて、どのように人生を豊かに過ごし、社会に対してどのような価値を見出してゆくのかに至るまで、幅広くインタビューさせていただきました。

※本記事はnote移行前の旧SPODGEから2018年7月19日に掲載した記事になります。


「心を開らかせ、育てて勝つ」それが指導方針


スポーツの指導者は教育者でもある。一番大切な育成・指導は、先ずそのスポーツを好きにさせる“内発的動機づけ”が大切。好きになったら、勝手に深みを追求します。強くなりたい、上手くなりたいという気持ちと共に、それに向かって突き進む自主性・主体性を育む事が出来れば、それが人生の生き方に反映されていくはず。それが人生を楽しむ、という事です。やっぱり、目を見れば分かります。今、目を開けているけど何を見ているか、どう考えているか、相手の心が見えてきます。耳も、聴力を持っているけど、何の言葉が入ってくるかは、その人の意識によって決まるとも言えます。だから、どれだけ指導者が、選手たちが、心を開いているかがお互いに重要です。

そして、内発的動機付けを促してゆけば、どんどん行動が自発的になり、益々そのスポーツが好きになる。好きになることで見えてくるものが全然違ってくる。人間はそもそも遊ぶために生まれたといわれているので、指導者も人生を楽しまないといけないよね。指導者の背中を見て選手たちは育っていくのだから。

ー今後も育成方針は変わらないでしょうか?

育成方針として大切なことは、選手が将来自立したときに、人間として本当に幸せになる為に、今何をする必要があるのかを逆算できる選手に育てることだと思います。即ち自立に向けた逆算が子育てであり、教育であり、育成指導です。

単純に答えを教えてあげるのではなく、どうやったらその答えが導き出せるかを考え、自ら答えを見つけ出す力を付けなければならないですよね。何の為に人間が生きているのか、それは幸せになるためです。何が幸せか、金とか地位じゃないって事を、先人たちは我々に教えてくれています。スポーツを通して選手が育ち、育った選手が幸せになり、いい人生を歩んでいけるかって事が、選手・人間としての成長であり、人生の成功だと思いますね。


サッカーを一生懸命やった、楽しんだだけでは駄目。重要なことは、スポーツを通して知性を身につけること


ーサッカーでも、プロはお金をもらうわけですが、超一流はお金を意思決定の材料にしないですよね。

お金で幸せが買えると思う人もいるけれど、それはその人の哲学だと思いますが、オシムさんのように戦争や紛争の悲惨な体験を通しての強い信念・哲学を指導に反映されているのは、本当に学ぶべきことが多いですね。
愛する人の為・国の為に自らの命を賭けて戦う精神・知恵・才覚・・・・インサイト(知性・洞察)大和魂。

ー松田さんの大和魂と言うのはどういった捉え方でしょうか?

使命感を持って、命がけで生きることですね。夢とか希望とか志を持ち、それを成し遂げるために常に前へ進み続けることだと思います。
人生って要は、生きている時間です。(その時間の)積み重ね方が重要だと思っています。

ノーサッカーノーライフだと、人生においてのサッカーの優先順位が決まる。本来大学生は、勉強しなきゃいけないけど、優先順位の1番はサッカーであるという生き方もある。だからこそ、自分にとってサッカーにプラスになることは必死に勉強する、これ当然のことですよね。栄養休養やトレーニング科学を幅広く学び、交友を深め、チームワークを大切にするとか、いろんな観点で勉強することが、つまりノーサッカーノーライフの結果ですね。

ーサッカーの優先順位を上げるなら、勉強をすべきだという事ですか?

サッカーで一番大事なのはインサイトと言われる、知性。洞察力・周りを見る力・考える力。それを育てないといいサッカー選手にはなれないですし。すべて生き方・考え方につながってくると思います。

ー結構、野球やサッカー選手では語学堪能な選手が多いというイメージですがそのあたりはどのように考えますか?

それは世界のスポーツだから、海外で仕事をするっていうなら語学力が絶対必要だからだと思います。中田選手なんか8ヶ国喋れますからね。川島選手もそうですね。中田選手は高校時代から海外に出るつもりで英語を勉強していましたね。

ー川島選手はヨーロッパに行きたかったから勉強していたとの話しがありますが。その背景には、ヨーロッパには有名選手が集まるから、母国語で指示が出せるキーパーが居たら絶対起用されると思って結果母国語で指示が出せたって言うこともあるみたいですね。文武両道ですよね。

まさにその通りですね。だから中田選手なんかは、海外最初の記者会見から流ちょうなイタリア語で喋っていましたしね。ユースの海外遠征の時、同じ飛行機にたまたま乗った時もずっと勉強していましたよ。語学を始め、幅広い勉強がサッカーをする上で大事という事がわかっているのでしょうね。

ー先を見据えて行動しているという事ですね。

それが一番賢いんだと思います。


人生を豊かに過ごすこと。サッカーが与える個人、社会に対しての価値


ー今までたくさんの学生を見られてきた中で、卒業後に社会で活躍している人っていると思うんですが、どんな学生生活を送っている方が多いですか?

 私が見ている限り、スポーツをやっている人は自分でやって、自分で決めて、なんでも自己責任で歩む人が多いですね。仕事をする中で、優先順位をどうつけるか、会社から何を求められているのかって言うのがわかるんじゃないかなと思います。そして、その中で自分ならどう役に立てられるか。
結局、自主的主体的に動き、自分の人生についてしっかりと考えている人が、活躍していると思います。何がやりがいで、何をやりたいかって言うところを自分自身でわかっていて行動し、自分の人生は自分で決めて、自分で歩むものものだと考えている自立した人が活躍していますね。

ー松田先生が考えるスポーツの価値はどんなところにありますか?また、今までのスポーツは学校教育の一環と言う意味合いが強かったと思うのですが、これからの日本に置けるスポーツの価値とか意義とはどんなイメージですか?

一番大事なところは、自分の人生を豊かに、生活を豊かにするものである認識を忘れないということです。要は、自分の人生を幸せにするものですね。人生の素晴らしい力・ツールとなるということです。ドイツではスポーツは0~100歳まで誰もが、楽しむということが当たり前になっています。障害者であれ誰であれ、スポーツが生活の環境を整え、心身を整え、生活の中にスポーツがあることでもっと豊かで幸せな素晴らしい国へ、というのがスポーツ基本法の醍醐味です。スポーツの価値はそういったところにあるんじゃないでしょうか。

ー選手が、先生を慕って集まってくると思うんですけど、それはご自身でどんなところにあると思われますか?

 そんなに来ないですよ(笑)。来てもらえることは有難い事で、その理由は、私がサッカーが好きで、彼らもサッカーが好きという共通の思いがあるということが一番大きいと思いますよ。好きな人同士が集まって、その中で役割分担をしているイメージですね。選手としてプレーする人もいれば、サポートするスタッフになる人もいる。私には、監督と言う役割があるだけですよ。

ー松田先生のように良い監督になりたい人って多いと思うんですが、そういった人たちにメッセージをいただけますでしょうか?

シンプルに、人生は出会い。出会いを大切にすることですね。

ースポーツを通しての人との交流を大事にするという事ですね。

 たとえ嫌な人や嫌なことにも出会うけど、それをどういう風に受け止めてどう学ぶかが重要だと思います。そもそもそういった感情も、出会いのひとつですからね。私たちは、生まれてきたことは奇跡的だと感じています。奇跡の命と奇跡の命が出会う奇跡。その奇跡に感謝をし、大切にしないといけないですよね。


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