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大学スポーツに広まる『致知』に迫る。~先人の教えを未来へつなぐために~

GUEST:
板東 潤(以下:板東)株式会社致知出版社の取締役。
藤尾 佳子(以下:藤尾)株式会社致知出版社の取締役。『致知』別冊『母』の編集長。

アスリートや大学スポーツの指導者の方々へインタビューする中で、人間形成に大きな役割を果たしていると、良く話題に上がる月刊誌『致知』。今回、致知出版社の取締役にスポーツと人間形成をテーマにお話を伺いました。

※本記事はnote移行前の旧SPODGEから2020年12月15日に掲載した記事になります。



変化する指導者の考え

―大学スポーツの中で、御社が発刊する『致知』の話をよく耳にします。なぜ、大学スポーツで通常書店では買えない月刊誌『致知』が広がっているのでしょうか?

私は、人間力を高めることに力を注いでいる指導者が増えているからだと考えています。

例えば、部活動で競技力の向上だけを求めてやっていても、トップレベルでは勝てない、突き抜けることができないという壁に当たるときがあります。そこで重要になるのは人間力ではないでしょうか。強豪チームは、元気の良い挨拶や規則正しい生活を部員全員が徹底しているなど、競技以外でも輝くものがあります。

指導者たちは競技力の向上だけではなく、人間力を上げることで人としての勝利に近づくと考えておられるのではないでしょうか。そして、学生たちが社会人や親になった時に、幸せな人生を送ることができるようになって欲しいという想いがあり、人間力向上のために『致知』を部活動に取り入れていただいていると思います。

多くの指導者の方が『致知』を読んでいるきっかけは、指導者自身が学生時代にお世話になった恩師が読んでいたり、指導者同士のつながりで紹介されて読んでいるようです。あとは学生の保護者からの推薦で読み始めることも多いとお聞きします。また、導入していない際は、目的や理由を伝えると保護者も「これは大切なことだ」とご理解いただき、チームで『致知』を取り入れるケースが多いです。

基本的には部費から年会費をお支払いいただいているチームが多いですが、選手自らが個人負担で支払っているチームもあります。

―指導者の考え方が、少し変わってきているということですね。

少し前の話になりますが、千葉県のとある高校の野球部でプロ野球選手になる生徒がいました。その生徒は入団前に不祥事を起こしてしまいます。そのまま入団することは出来たのですが、選手としての7年間で一度も輝かしい成績を残すことがなく引退をしました。

その野球部の指導者は、生徒の人間力を育てられずに送り出してしまったことをとても悔いておられました。今は競技力に加え人間力向上に向けて取り組んでおられます。競技力だけではなく人間力を向上させることが、プロでも活躍する選手になると考えておられるようです。

―先日、元Jリーガーの近藤岳登さんのお話をお聞きしたとき、「人間力を育てる松田先生の指導があり、松田先生のおかげで人間として成長できた」と近藤さんが仰っておりました。松田先生も『致知』を読まれておりますが、『致知』を取り入れている部活動の選手に共通点はありますか?

『致知』を取り入れている部活動の選手は、人間力の土台はできる方が多いと感じています。取り組みの最初は反発があるみたいですが、取り組みの意図を理解し、部内に浸透するまでが早いと思いますね。指導者が伝えたいことと同じことが書いてあることに気付き、選手達が自ら読むようになります。

―選手たち自身が内面から変わることは素晴らしいことだと思います。

我々は「木鶏会(もっけいかい)」という『致知』を読み、感想を書き、伝え合うという勉強会を行っています。

先日、オンライン木鶏会を開催した時に、参加してくれた中学生が『致知』2020年12月号に掲載の夜間学校の先生の記事を読んで「普通に学校へ行けるということがありがたいと気付いた」という感想を述べていました。一つの記事を読んで、感謝の想いが深くなることは素晴らしいことだと思いますし、とても嬉しかったですね。

『致知』の記事を読むと、今ある当たり前は当たり前ではないことに気付くことが多いという感想をいただきますが、株式会社サンリ取締役の臼井さんのおっしゃる他喜力(たきりょく)のように、こういった気付きや感謝が人として成長していく理由なのかなと思っています。

―もしかしたら就職活動にも良いかもしれませんね。

木鶏会の良いところは、記事を読み、気づきや決意を書きだすことで、自分のモヤモヤが形になって見えるようになります。そして感想をみんなに伝え合うことで、想いが反芻されて自分の中に残ると感じています。

私の体験ですが、中学生の時に森信三先生の『修身教授録』を家族で輪読していました。読んだ感想をお互いに伝え合うことを、当時は受け身でやっているだけでしたが、知らぬ間に私の中に知識として蓄積されていて、社会人になって様々な困難にぶつかった時に、先人たちの対処の仕方が自然と頭に浮かんできました。

スポーツでも、「もう少し」「あと一歩」という苦しい状況でこういった蓄積されたものが自然と出てくるのかなと思います。

『致知』は理論や理屈ではなく「実学」です。

インプットしたものをアウトプットすることで魂に刻まれると思いますし、他の方の考えを聞くことで「こんな方法があったのか」と新しい発見をすることができます。

どんな状況でも「必ずできる」と成功を信じることが出来るようになりましたね。
成信力(せいしんりょく)が養われました。

スポーツと人間力の親和性

―今後、『致知』が大学スポーツに広がる中で考えておられることはありますか? 

チームや競技の垣根を越えて読んでいただければと思っています。スポーツは想いを伝播させる力がありますし、良い意味での強制力もあります。試合の勝利だけではなく、人間力を高めることで大学スポーツ、延いては、スポーツ界全体の底上げになれば良いなと思います。
それがスポーツ界にとって本当の意味での「勝利」だと考えます。

―『致知』はスポーツとの親和性が高いと感じています。

そうですね。やはりスポーツは身近なものですし、母校の部活動の試合結果などに興味を持つ方が多いので、アスリートの発言・発信は影響が大きいです。だからこそ、スポーツ界から日本を良い国にしていただきたいという想いもあります。

―スポーツの力をどう感じていますか?

影響力の大きいものだと思います。

例えば、甲子園はずっと応援していたくなりますし、子ども達が頑張る姿を見て応援したくなります。自分が高校生だった姿と重ねて応援したくなることもあります。

スポーツは成功した裏に、人間力の積み重ねがあることでドラマが生まれると思うんです。そして、スポーツから学んだ事は企業経営やビジネスに活かせると思っていますし、スポーツで得た人間力は汎用性が高いと思います。

スポーツは心の持ち方で結果が変わってくると思いますし、スポーツは人生そのものだと思います。人間学の縮図のようなものですよね。

9年前から弊社社長・藤尾秀昭の講演「20代30代のための人間力養成講座」を始めました。

なぜ始めたかというと20代、30代の方はこれから子どもを育てる年代になりますよね。どういう子育てをするかによって、日本の未来が変わると思っています。子どもは親の生き方をマネすると思うんです。

だからこそ、10年20年後、日本の中核になる人たちが人間学を学んでほしいと思いました。学校では教えきれないことを学べば、いじめや虐待、自殺を無くすことだってできるかもしれません。

人間学は、木の幹や強い根っこだと思っていて、しっかりと養うことができれば、どんなに強い風が吹いても丈夫な木(人)になりますし、たくさんの葉(知識や経験)を付けることができると思っています。

そのためにも『致知』が広がり、人間学を学ぶ環境として読まれてほしいと願っています。