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新型コロナ集団感染を乗り越え、感動の「日本一」 ~天理大学ラグビー部 小松節夫監督~

GUEST:小松 節夫(こまつ せつお)

天理大学ラグビー部監督。天理高校卒業後、フランスで2年間ラグビー留学し、同志社大学へ進学。社会人では日新製鉄で活躍した。1995年度に天理大学ラグビー部監督に就任。
2021年1月に行われた全国大学ラグビーフットボール選手権大会では、念願の初優勝を果たした。

※2019年のインタビューはこちら
https://spodge.sports-f.co.jp/n/n2a3976f9c8bc
『年始の激闘、ラグビー大学選手権が9連覇で止まったあの試合。天理大小松監督に聞いた、18年掛かって掴んだ勝利の秘訣は「一手一つ」。』

※本記事はnote移行前の旧SPODGEで2021年2月26日に掲載した記事になります。


困難を乗り越え勝ち取った優勝

ー小松監督、大学日本一おめでとうございます。優勝後の反響は大きかったと思います。

そうですね。振り返れば、周りの方からは「新型コロナウイルスを乗り越えた天理大学が優勝するストーリーができている」と言われていましたね。

最初は「何を言っているんだ」と思いました。そんな簡単なことではないですし、少し無責任だなと。だた、こういった意見を聞き「僕らがしっかりと活動して優勝すれば良いストーリーだな」と感じていました。不祥事など何か問題を抱えていればいくら技術レベルが高くても優勝できない事もありますから。

だからこそ、新型コロナウイルスをきっかけに優勝への道が見えたのかもしれません。

ー天理大学ラグビー部は2020年8月に新型コロナウイルスの集団感染があり、1ヶ月活動を休止していました。当時のラグビー部はどのような状況だったのでしょうか?

ラグビーどころではありませんでした。1ヵ月間の活動停止のなか、ラグビーのことは考えられませんでしたね。ニュースを見る間もありませんでした。

特に感染発覚から最初の1週間はものすごく忙しかったです。
感染者への対応、保健所とのやり取り等、電話の前に座りっぱなしで対応していました。携帯電話の通話履歴も100件以上入っていたりとバタバタしていましたね。

天理大学ラグビー部は170名を超える部なので体調不良者は時々いましたし、念のためPCR検査を行うと陰性ということが何回か続きました。ですから、当時は「簡単には感染しないんだな」という感覚でした。

後日、別の部員が体調不良と申し出てきたのですが、2日で熱も下がり治ったということだったので練習に参加させようとしました。ただ「味がおかしい」ということで急いでPCR検査に向かわせたところ、翌日に陽性が判明しました。

陽性が判明してからは直ちに全員寮で待機の指示を出しました。

そして、大学、ラグビー協会等の関係各所に報告を入れました。

濃厚接触者が要検査対象になりますが、我々は寮生活なので全員が濃厚接触者になり得ます。検査が必要な部員をピックアップしなければならないのですが、この線引きが難しかったです。

まず、部員の50人を調べたところ約3割の部員から陽性の結果が出ました。2回目の検査を行い、3回目にしてやっと部員全員が検査を終えました。感染が拡大してしまうと集団生活ですから手に負えない状況でした。感染の広がりがものすごく早かったです。

感染者との隔離をするまでに10日間かかりました。そして、部内の感染が終息したのは1か月後の9月でした。

ー当然、その期間は練習ができないですよね。

何も出来ないです。
おそらく部員は隔離された部屋の中で自主的にトレーニングをしていたと思います。松岡(キャプテン)やフィフィタ(副キャプテン)はZoomでトレーニングをしようと考え、トレーニングコーチを混ぜて画面上で一緒にトレーニングをしていましたね。

そして、保健所や大学の許可をいただき、9月10日から正式に活動の再開ができました。

本来であれば菅平(長野県上田市にありラグビー部合宿の聖地)で試合を行う予定でしたが、1ヵ月のオフ期間になってしまった感じです。そこから徐々にコンデイションを上げてリーグ戦、大学選手権へと駒を進めました。

支えられることへの感謝

ー困難を乗り越えての優勝ですね。以前、お話をお伺いした際に「苦情から御礼に変わり、地域から応援されるチームになった」と仰っていましたが、昨シーズンも応援されていると感じましたか? 

ありました。特に昨シーズンは応援して頂いているというよりも、支えて頂いているという感覚が強かったです。

ラグビースクールの子ども達からの手紙や動画のメッセージ、他の運動部からも応援を頂きました。加えて、コロナ感染後も多くの方から温かい言葉を頂きました。

そして、いただいた言葉以上にこのラグビー部はたくさんの方に支えられていると実感しましたね。

各所への連携や膨大な事務処理など、大学にプロジェクトチームを組んでいただき献身的なサポートを行っていただきました。大学関係者を筆頭に多くの支えがなければ、1ヵ月で終息の宣言まで出せなかったと思います。

今回の優勝で応援されていることへの恩返しと、支えられていることへの恩返しができたと思います。

ー天理大学の長い歴史の中で初めての優勝です。優勝を実感されたのはいつだったのでしょうか? 

まず、優勝が決まった瞬間と学生達が喜んでいる姿に嬉しさが込み上げてきましたね。

その後は大学やOBなど関係者が喜んでくれたのも嬉しかったですし、昔からつながりがある方々からラグビー部へお祝い等をいただいた際も優勝した喜びを実感します。

強い想いがチームの文化をつくる

ー話題を変えますが、「日本一」を目指すなかで小松監督が大事にしていたことはありますか? 

結果が日本一になるためには、ラグビーも、ラグビー以外も日本一に向かっていることが大事です。

日本一に向かって一生懸命取り組む過程で、様々な発見があり、4年間の充実や「天理大学でラグビーをやって良かった」と感じることが出来ると思うんです。

天理大学には「天理大学でラグビーがしたい」という想いで来る部員がほとんどです。だからこそ「天理大学でラグビーをやって良かった」と思って欲しいですよね。

ー高校時代、全国大会に出場していない選手が天理大学では活躍されています。今は「天理大学へ行けば日本一になれる」というチームになりました。

指導を始めて28年目になりますが、最初の10年間はAリーグに上がるために必死に取り組みました。やっとの思いでAリーグへ昇格しても最初の2年間ほとんど試合に勝てず10連敗を喫する時期もありました。

その後、関西リーグ優勝、2012年では大学選手権準優勝、2019年は当時10連覇を掛けていた帝京大学を下しベスト4。そして、今年の1月の優勝につながります。

Aリーグに復帰するのか、関西で優勝するのか、日本一になるのかはレベルの違いだけで、積み重ねてきたことは一緒なんです。

だから、僕が育成しているのではなく、チームの文化が選手を成長させていると感じます。決して天理大学の秘密練習があるわけではないんですよ(笑)

部員が卒業する時に「努力が足りなかった」と思っても良いと思います。そういった部員は後輩へ「俺みたいになるな」と伝えることができますし、大学での失敗を糧にして次のステージで頑張ることが出来ますから。

それも含めて4年間が「充実していた」「よかった」と思って欲しいですね。

そういった全ての歴史の中で全国大会へ出場していない先輩たちが、スーパースターが在籍する大学に勝つことで、後輩部員たちが「自分も勝ちたい」と努力を重ねて文化が醸成されていきました。

関西リーグの希望になる

ー天理大学の優勝を機に関西の大学ラグビーにも良い影響があると思います。

今回の優勝は関西リーグのチームにとって希望になると思っています。今まで関西の大学チームは「日本一は遠い」と感じていたと思いますが、我々が優勝したことで目標が近づいたと思います。

関西リーグのレベルが上がれば、大学選手権の決勝を関西リーグのチーム同士で戦える日が来るかもしれません。関西リーグ内で「大学選手権の決勝でまた戦おう」ということになれば関西リーグが更に盛り上がると思いますね。

ー最後に、新チームの目指すものは「連覇」でしょうか? 

連覇と言うよりは「日本一」を目指すクラブでありたいと思っています。チーム目標はいつ何時でも「日本一」です。

ただ、新チームは「悔しさを晴らす」というモチベーションのチームではないことが昨年と大きな違いです。ですから、自分たちもあの素晴らしい舞台で優勝カップを掲げるためにはどうしたらいいのかを考えなければいけません。

追われる立場とかそういうことではなく、昨年のチームを超えることができれば優勝ができます。そのためにどうするのかを考える必要があります。

幸いにも、優勝できるチームの基準ができました。チーム一丸となって、改めて「日本一」を狙いたいと思います。


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