見出し画像

スポーツの経験を活かし、別の環境で輝くために。~ラグビー元日本代表 仲村慎祐~

GUEST:仲村慎祐

元ラグビー日本代表選手。大学3年時に日本代表に選出された。
社会人ではサントリーサンゴリアスに所属。
競技引退後、5.11 Tacticalオフィシャルショップを運営する会社で社員として働きながら、俳優として『ノーサイドゲーム』や『半沢直樹』といったドラマに出演。また、YouTubeなど様々な活動を行っている。

5.11 Tacticalオフィシャルショップ

X(旧Twitter):https://twitter.com/JBXIN


ラグビー選手として高校、大学、社会人、そして日本代表として活躍され、現在は社員として働きながら俳優業やYouTubeなど幅広く活躍する仲村さん。
大企業を退職し、なぜ、様々な活動に取り組むのか。目指すものは何か。そして、スポーツに対する想いなどをお聞きしました。



自分を成長させた日本代表の経験

ー仲村さんがラグビーを始めたきっかけを教えてください。

私は兵庫県にある中高一貫の報徳学園中学・高校に入学して、中学はバスケ部に所属していました。
中学時代から身体が大きく、スポーツテストでは握力85キロが出るほどのパワーを持っていました。よく、柔道部、ラグビー部から熱い誘いを受けていましたね(笑)

高校へ進学したらバスケ以外のことをやろうと考えて、個人競技に興味があって柔道部への仮入部を考えていました。

その矢先、「ラグビーやらんか?」と父から薦められました。
当時、高校ラグビー部員の見た目がおじさん(ひげが生えている、日焼け、身体が大きい)に見えてしまい、正直ラグビー部は嫌だなと思っていました。

父からラグビー部を薦められると、野球部の顧問なので本来は関係ないはずの担任から「仲村、ラグビー部に入らないか?」と薦められるようになり、また柔道部の監督も「ラグビー部へ行け」と、なぜか周りからラグビー部を勧められるようになりました。

また、仲の良い先輩からもラグビー部の誘いを受けていました。

そこまで言われたらラグビーに興味を持ちますよね(笑)じゃあ、やってみようと思い、仮入部届を提出し、練習へ参加しました。ある日、ラグビー部がバーベキューを行うことになり、そこへ参加すると、いつの間にか本入部に変わっていました。

これがラグビーをはじめたきっかけです。

ーその後、高校で全国大会へ出場し、日本大学へと進学されました。大学3年時には日本代表に選出されましたが、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

日本代表の選出はとても運が良かったと思います。

大学3年時に私が出場していた試合を、当時の日本代表監督であるジョン・カーワン氏がたまたま観ていて、監督の目に留まったようです。

当時の日本代表の選考では、身体の大きな若い選手を求めていて、190cmのプロップ(ラグビーのポジション、背番号は1・3)は珍しいということもあり興味を持っていただいたようです。その試合では、たまたま良いパスをするシーンもあり、身体も大きく、パスもできると評価いただき、声を掛けていただきました。

当時、学生で選ばれたのは同じ日大のトンガ人と、今も活躍するリーチマイケル選手と私の3人でした。

いざ、代表合宿へ参加すると、よく知っている有名な選手ばかり。練習もハイレベルな内容で、とにかくついていくのに必死でした。
数か月でしたが、トップ選手と一緒に過ごすことで、ラグビーのスキルはもちろん、人としても成長ができたと感じています。

大学へ戻ると、以前と比べ自分が成長していることにも気付き、ラグビーにも自分にも誇りを持てるようになりました。

自分の可能性を知るために

ー大学、社会人で活躍され競技を引退しました。社員として働く環境もあったかと思いますが、サントリーを退職されたきっかけを教えてください。

競技引退後は、サントリーで3年ほど働きました。酒類を担当し酒販店と取引先の飲食店へ営業をしていました。当時の担当エリアは赤坂周辺で、夜中の2時、3時まで営業として飲みに行っていましたね。

サントリーはとてもいい会社でした。
担当していた飲食店に商品が納品され、お客さんがおいしそうに飲んでる姿を見て嬉しく思いましたし、楽しく仕事に取り組める環境があり、働く環境として申し分ないと思っていました。

ただ、働く中で、いつも心に引っかかっていたことがありました。

サントリーへの入社は、大前提としてラグビーをするために入社しました。
そのため、競技を引退し、当たり前のように会社員として働くことに違和感を感じていました。「なぜここにいるのだろう」と。

人によっては「さんざん好きなことやったんだから会社に恩返ししろ」という言葉を掛けてくる方もいらっしゃいました。

しかし、色々なことがある中で、「この会社で働き続けていいのか?」と疑問を持つようになりました。

あとは、働く中で未来が想像できてしまったことも退職のきっかけです。身近にいる上司や経営陣の姿を見たとき、もっと色々な経験がしたいと思うようになりました。

そう思ったきっかけは、大学3年時に日本代表に選ばれたことが大きく影響していると思っています。

振り返れば、日本代表になりたいと思ってラグビーをやったことがありませんでした。ただ、運よくチャンスを掴むことができ、日本代表を手にしました。

この先も日本代表選出のように、未来は何が起こるかわからないということに面白さを感じました。

先が見える・イメージできることよりも、もっと面白く、自分が成長できる未来が待っていると考えたからこそ、退職を決意しました。

大企業から転職することはリスクだと言われたこともありましたが、大企業以外だからこそチャレンジできることの方が多いですし、これまでとは全く異なる環境で自分の経験を活かしたいと考えました。

ー現在5.11 Tacticalのオフィシャルショップの運営会社の社員として働いている傍ら、俳優業など様々な場所で活躍されております。5.11 Tacticalは現役時代からお付き合いがあるとお聞きしましたが、どのような経緯で入社したのでしょうか?

このブランドを知ったきっかけは現役時代からよく行っているサバイバルゲームでした。

5.11は、もともとはロッククライミングパンツを販売しており、各アイテムの質が良く、アメリカのFBIが使用したことで、世界中の警察や軍隊が扱うウェアとして世界的ブランドとなりました。
極端なミリタリーではなく、私服としても着用できるデザインが多くあり、私も普段着としてよく着ていました

2018年1月にアジア最大級、日本初のオフィシャルストアが福生にできたので、オープン初日に1人の客として行った際に、社長と出会い、個人スポンサーとして支援いただけるようになりました。

サントリーを退職後、縁あってお声がけいただき、現在は社員として働いています。
また、5.11で働きながら俳優業やYouTubeといった幅広い分野で活動もしています。日々奮闘中です。

写真提供:本人 カメラマン:長尾亜紀氏

自分の価値を突き詰める

ー高校・大学と社会人では「スポーツに取り組む」という意味が大きく変わると思いますが、仲村さんのご意見はいかがでしょうか?

高校・大学の競技生活には終わりが見えています。卒業があるからです。

一方、社会人の競技生活には終わりがありません。

社会人での競技生活は結果が求められるため、継続ができるかできないか、第三者の判断に委ねられます。ある意味、自由な環境で競技に集中できる環境がありますが、他人によって競技人生を左右されるという恐怖はいつも感じていました。

ただ、日本のラグビーの場合、企業スポーツという文化が根強く残っています。今はリーグワンになりプロ化が進んでいますが、引退後はその企業の社員として働く環境があります。

競技者としては結果を出し続けないといけないですが、人生という点では守られていると思います。

ー日本ラグビーがリーグワンになり、プロ選手が増えてきました。この環境も少しずつ変化していると思うのですが、どう捉えていますか?

繰り返しになりますが、競技引退後、働く環境があることは人生の中で大きなメリットだと思います。

一方では、その環境がデメリットに働く可能性もあるかなと個人的には思います。

プロ選手は競技の結果で生活をしているので、ケガや引退という予測不能なことに向けて自分でお金を増やす方法や生活を豊かにする方法などを見つける行動をする方が多いと思います。

日本のラグビー選手の場合、守られた環境があるため、自身で行動を起こし、競技とは別のマネタイズをしている選手は少ないと思います。

知人のトライアスロン選手である中村美穂さんは、トライアスロン競技に関することで生活をしています。競技者としてはもちろん、指導者としても活動していて、自らの経験をマネタイズしている方です。

これって、自分がどんな価値を持っているのかを突き詰めている証拠だと思うんです。

競技者として、「自分自身の価値は何か」を突き詰め、「どのような行動に移せるのか」を考えて実行して行くことが大切なことだと思います。

誇れる自分を目指して

ー現在の活動で意識されていることはありますか?

毎日楽しく過ごしています。ただ、現在の活動はラグビーの経験を活かしたマネタイズを直接しているものではありません。ですから、難しさも感じています。

YouTubeではキャンプの動画などアップしていますが、不慣れなことばかりですし、1人でやり切れる能力はまだまだありません。

YouTubeで言えば、企画・撮影・編集して1本の動画になるまでに手間と時間がかかります。手間や時間は自分の成長と投資によって減らせますが、全てを1人でできるレベルではありません。

なので今は、日本の有名なテーマパークで演出家として活躍しているkosukeさんと一緒に取り組んでいます。

全く逆の環境で育った人と一緒に取り組むことで、相乗効果を生み、成長していきたいと思っています。

ただ、人間だから難しい部分があると感じています。

例えば、自分ができて相手ができない。相手ができて自分ができない。お互いの強みを合わせることが魅力的な作品を生み出すと思っているのですが、間違ってしまうと企画が失敗に終わる可能性が大きくなります。

このバランスが難しいと感じています。ただ、これは取り組みながら一緒に答えを出していくしかないですね。

ー今後仲村さんが目指すものは何でしょうか?

直近の活動では、今進めているアスリート向けのコーヒーを広めたいです。色々な方に協力をいただき、プロジェクトを進めています。喜んでくれる人がたくさんいると思っているので、成功させたいです。

大きな話になりますが、現在色々なことに挑戦しているのは、結果を出して自分の自信に繋げたいからです。

例えば、営業として頑張って結果を出した。YouTubeのフォロワー数が増えて、マネタイズができるようになった。など、成功体験を積み上げ、力にしていきたいです。

自分の人生を振り返ると、日本代表になれたことは大きな成果であり、自信になっています。ただ、それを誇れるような結果を全く別の分野でも作っていきたいです。

自分自身で誇れるような人生にすることが、今目指していることです。

ー最後に、仲村さんが思うスポーツの価値・可能性を教えてください。

自信と社会性が身につくことは大きなポイントだと思います。

加えて、ほぼすべてのスポーツに共通するのが、スポーツを1つのコミュニティとして考えると、スポーツに取り組んだ人の考えや苦労が感じ取れるし想像もできると思います。

その段階である程度の信頼に足りうると思います。

最後の最後に判断を下すときに、スポーツをやっている人とそうではない人がいたら、同じスポーツをやってきた人を選ぶと思います。

今日の取材も同じスポーツをやってきた人が話を聞いてもらえているということは価値観が共有されているので、話していて伝わっているなという安心感を得られます。

「スポーツ」という言葉、経験があれば共通項が多いですし、信頼できることがスポーツの価値だと思います。

あとは、スポーツ経験のある人は組織において潤滑油になりうるとも考えています。

空気を読む能力、理不尽を飲み込む力を持っているからです。組織において誤解なく伝えたり、気持ちよく働ける環境を作れるのはスポーツマンがいる組織が多いと思っています。

上司やお客様からひどいことを言われても、「なんでこの人は私にこの言葉を言ったんだろう」と前向きに捉えられる力もありますよね。

つい強い口調で伝えてしまい組織が壊れてしまうことがありますが、前向きに捉え、感謝の気持ちを持つ「クセ」がついている人はスポーツ経験者に多いと思います。

スポーツの経験を活かし、自分の価値を見つけて行くことで、新しい自分の力を見つけることができますし、自分の誇れる人生になると思います。