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国立大史上初の快挙を上げた和歌山大学硬式野球部。大原監督のスポーツに対する考えとは?

GUEST:大原 弘(おおはら ひろし)

和歌山大学硬式野球部監督。2008年監督就任。
2017年第66回全日本大学野球選手権大会に初出場。
2021年第70回全日本大学野球選手権大会に4年ぶり2度目の出場。
全日本大学野球選手権大会へ出場した国公立大学で、2大会とも初戦突破を果たした唯一の国立大学。

※本記事はnote移行前の旧SPODGEから2021年7月27日に掲載した記事になります。



国立大学の想い

-全日本大学野球選手権大会出場、そしてベスト16おめでとうございます。
国立大学としては、出場した2大会で初戦突破をしたのは史上初の快挙ですね。

ありがとうございます。東京六大学に勝つことで、和歌山大学の歴史が変わると考えていましたので、本音を言えば慶応義塾大学に勝ちたかったです。

歴史を作ってきたOBたち  提供:和歌山大学硬式野球部

ただ、新型コロナウイルスの影響により、なかなか練習ができない中で、全国大会へ出場ができたことを嬉しく思います。第70回大会では唯一の国立の大学として注目を集めることが出来ました。

-今大会では多くの応援があったと思います。

皆様の応援を感じることができました。ファンや各メディアからも「頑張れ」と激励の言葉をいただきました。
4年前、初めて全国大会へ出場した時は「全国大会へ出場するだけでも、すごいことだよ」という声だけでしたが、2回目の全国大会出場では「〇〇大学に勝ってこい!」と勝利に期待する声をいただけ、本当に嬉しかったですね。

-国立大学は練習環境や部員数など制限が多いと思います。

練習量は少なかったと思います。私たちが意識したことは、チームとして勝つことです。日を重ねる毎にチームが一つになっていくことを感じましたし、他の大学よりも結束力のあるチームになったので、勝つことが出来たと思います。

私の意見ですが、私立大学の方が環境としては恵まれていると思います。おそらく、野球の上手な選手が多いと思っています。
しかし、私たちは限られた環境を理解し、その中でどれだけできるかを挑戦しています。私は選手に上手いチームが勝つのではなく「勝った方が強いチーム」だと伝えておりました。

先日の慶応義塾大学との一戦では、自分たちの足りない点に気付くことができました。私たちに足りなかったこと、それは「リーダーシップ」です。

自分たちを鼓舞するような言葉を慶應の福井主将が発信し続けていましたし、慶應の選手たちも自分たちの野球を信じて取り組む姿勢を感じました。
悔しさはありますが、自分たちが成長できることを学びました。
グラウンドでの慶応義塾大学福井主将の振る舞いは本当に素晴らしいものがありました。

指導の中で大切にしていること

-大原監督が指導される中で大切にされていることはありますか?

選手たちが「和歌山大学に進学してよかった」と思って卒業してほしいと思っています。

エースの瀬古くんは、和歌山大学以外の進学も考えていた選手でした。しかし、彼は和歌山大学の野球に練習を通して直接触れて、進学したいと決意をしてきてくれた選手です。
先日の全国大会終了後に、瀬古くんが卒業した高校の監督から「和歌山大学へ進学して良かったです」と、瀬古くんが言っていたことをお聞きしました。
この言葉は本当にうれしかったです。

-環境を言い訳にせず、自分でコントロールができることに目を向ける力が強いと感じます。

国公立大学のため、専用球場もなければ二塁手のすぐ後ろにはアメリカンフットボール部が練習している環境です。そこから学生たちが大学の敷地内に使用されていない荒れ地を発見してきました。そこを部員みんなで草抜きをして、最後は知り合いの経営者に整地の協力をいただき第二グラウンドが完成しました。

部員の想いが大学をも動せるということを実感したと思います。部員たち自ら作った手作りのグラウンドです。

部員で作った第二グラウンドの経緯 提供:和歌山大学硬式野球部

環境は与えられるよりも、自分達で切り開いていく方が強くなるだけではなく学びと気づきがあると思います。
自然とグラウンドにも感謝の気持ちや野球ができる喜びを感じられるようになります。

私立大学のような専用球場や室内練習場がなければ屋根付きブルペンもありません。「だからこそ」です。だからこそ私立大学に勝てば他の国公立大学にも夢や希望を与えられると考えています。

経歴や国立や私立ということは関係ありません。野球部なので「素晴らしい野球部」であることに価値があります。

-天理大学ラグビー部の小松監督も同じことを仰っておりました。こうした想いを持つ選手たちが将来、和歌山大学硬式野球部を支えてくれると思います。

私は、大学生活で学んだことが社会人生活に直結すると考えています。

今大会には、スタメン問わず4年生全員を神宮まで連れて行きました。
そして関東入りしてからの練習では「4年生が中心となり1戦目(九州産業大学戦)を勝たせてほしい」と伝えました。すると、見事なまでに4年生が盛り上げて、良い練習の雰囲気を作ってくれました。

試合に出ない、ベンチにも入らない4年生のおかげで勝てたと思っています。
必死に取り組む4年生の姿を見た選手たちが心を動かされて一つにまとまることができました。大学スポーツの中で本当に大事なことは、一生懸命取り組む事だと思います。

-最上級生のチームに対する想いが強いほど、まとまりのある強いチームになると思います。

早慶戦を観戦した際に、両校の部員から早慶戦に対する想いやプライドを感じました。スタメン、サポートメンバー問わず、最上級生が中心となり、勝つために必死に取り組む姿が見えました。

伝統や誇りは、選手の想いや取り組む姿勢からできるものだと思います。私たち、和歌山大学野球部も伝統を創るために最上級生が中心となり必死に取り組んでいます。

-仰る通りだと思います。一生懸命に取り組む姿が人の心を動かすと思います。

少し話が変わりますが、先日行われた2021年度早慶戦では、難病を抱えた男の子が始球式を行いました。

慶應義塾大学とNPO団体の取り組みの中で、難病を抱える子どもを大学硬式野球部の部員として招き、始球式を行うという取り組みです。

始球式本番では、見事キャッチャーミットにボールを収めました。会場全員がガッツポーズして、慶應ナインが笑顔で男の子に寄り添う姿に感動しました。
プロスポーツにはない、大学スポーツだからこそある感動だと思いましたね。

大学スポーツから学ぶこと

-大原監督は大学スポーツに対し、どのような期待を持っておりますでしょうか?

大学の講義では得られない社会で活用できることを大学スポーツでは学ぶことができると私は考えています。

ですから、部員一人ひとりに対し、選挙権を持った一人の社会人として接することを心掛けています。そして、卒業するときは新卒1年目ではなく、社会人5年目の人間として送り出すようにしています。

和歌山大学硬式野球部の想い 提供:和歌山大学硬式野球部

中学、高校卒業後の進路とは異なり、大学卒業後の進路は様々な選択肢から自分の道を選ばなければなりません。

だからこそ、多くの考えや知識に触れることが重要です。和歌山大学硬式野球部では、『致知』という本を読むよう薦めています。

『致知』に触れることで人間的成長に繋がると考えているからです。
日体大の野球部や天理大学ラグビー部は部員全員で『致知』を読んでいると伺いました。野球よりも大切なことです。

-社会に出る前の期間ではなく、一人の社会人として接することで、学生の意識が変わると思います。そして、多くを学ぶことでより豊かな選択肢を選ぶことが出来ると思います。

スポーツ界では未だに体罰や指導問題が出てきます。まだそんなことをやっているのかと思いますが、要因として指導方法の引き出しが少なく、コミュニケーションが図れず、最終的に体罰に至るのだと私は思います。指導者の勉強不足ですね。

指導者はもちろん、大人になっても知識を増やし続けることが大切です。特に指導者は時代とともに、指導する選手が変わります。ですから、心理学や伝え方などを学び、自分が持つ引き出しを増やすべきです。

先日、高知県立梼原高等学校の指導者とお話しする機会がありました。そこで人との付き合い方である交流分析について学ぶことをおすすめしました。
交流分析を理解することで、選手の特徴を捉え、選手一人ひとりに適した指導ができると考えています。

私は社会人として教育業界に入って33年が経ちます。行動心理学などに触れ、人が交流する際の原理原則を理解しました。今、大学生の指導に活きていると思います。

-指導者も選手も学ぶ姿勢を忘れずに成長し続けることが大切ですね。

そうですね。時代が変わり、大学スポーツにも変化が表れました。
昭和、平成はカリスマのリーダー/指導者が引っ張っていた時代でした。指導者が圧倒的な情報を持ち、指導していた時代です。

ただ、時代は令和へと変わり、必要とされるのは選手と同じ目線で指導することだと思います。そして、色々なリーダーの力を借りてチームを創る時代です。

今は誰でも簡単に情報が手に入る時代です。「監督、おもしろい取り組みをYouTubeで見つけました」と学生から様々なことを教えてもらうことも増えました。

-最後に、大原監督が考える学生スポーツとは何でしょうか?

学生スポーツの真価は3つあると思っています。
・頑張る能力
・「観」の能力
・人間力
の3つです。

頑張る能力とは、必要な努力と、我慢をすることです。
2019年ラグビー日本代表が活躍されました。彼らのインタビューで「目標を達成するためには犠牲が伴う」と答えていました。またハーバード大学ではこれを教えられています。

何かを得るには我慢・犠牲が伴うこと、そして、努力を続ける人のみ、可能性があるということです。

「観」の能力は、ものごとの見方、考え方をどう受け止めるかという能力です。
これらは経験から培われるものです。人生で起きた出来事の受け止め方によって人生観が変わります。今回、神宮(全国大会)で野球ができたことは、選手たちにとって大きな出来事になると思います。

そして、目標に向かい努力を重ねること、経験を光らせることが人間力を向上させます。

大学生はこの3つに向き合える時期です。
この時期を大切に過ごしてほしいと思います。

私たち和歌山大学硬式野球部も、指導者・選手ともに成長し合い、一つでも勝利を重ねていきたいと思います。

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