東京オリンピック正式種目に採用された「3×3バスケットボール」の魅力と可能性を、チームオーナー、選手に聞いてみた。
GUEST:石田 剛規(いしだ たかき)、根岸 夢(ねぎし ゆめ)、桂 葵(かつら あおい)
湘南サンズ:湘南で活動する3×3のバスケチーム
本日は、2020東京オリンピックの正式種目にも採用されました、3×3バスケットボールのチーム、湘南サンズの皆様にお越しいただきました。
ドラマ「ブザービート」にも俳優として出演していた湘南サンズのオーナー石田さん、同チーム所属根岸さん、桂さんに3×3にかける想いや、創設の経緯から、バスケットボールに対する想いや、ご自身の目指している今後のキャリアまで様々な角度からお話をお伺いしました。
※本記事はnote移行前の旧SPODGEで2018年7月26日に掲載した記事になります。
強いチームを作ることだけが目的ではない。湘南の地から影響力を
―湘南サンズを立ち上げたきっかけや想いを教えていただけますか?
石田さん:元々、私自身は10 年間プロバスケットボール選手として活動していました。今は、東京エクセレンスというBリーグのチームでヘッドコーチをしています。選手以外の様々な活動(※石田さんは元俳優)を経て、自分自身がプロ選手として活動することへの不安を覚えて、その際にプロ選手の立場の弱さを認識したのがきっかけですね。
また、プロバスケットボール選手だったから何なの?何ができるの?という社会の評価や周りの空気、そして自分自身もそう思っていたというのもあります。何か自分の力で学んだこと、経験してきたことを活かして、チーム作りをしていきたいという思いがあって作りました。クラウドファンディングで資金を集めて立ち上げて、今5年目です。
―チーム作りは、どんなところから作っていったんですか?
石田さん:クラウドファンディングもそうですが、ファンの方を巻き込んでいくことを意識していました。その中で徐々にチームの基盤が作られていくわけですが、選手を集めていく過程も3×3ならではの面白い仕組みがあります。リーグに登録する選手たちのリストを見ながら、直接各チームからスカウトアプローチをかけるんです。(現在では自由に選手と交渉しており、Bリーグからの参加も増えました)サンズでは、少しでも神奈川とか湘南という地に所縁がありそうな選手に会って話をする、という流れをとっていました。
―面白い仕組みですね。その中でどのようなチーム作りをされていったのでしょうか
石田さん:チームは最初から強くなくてもいいなと思っていました。もちろん試合をするからには勝ちにいきますし、そのために一生懸命プレーをしますけど。プロの選手を多く集めて勝ちに行くという方法ももちろん検討しましたが、湘南という地域に根差していろんなものを発信し続けることができれば、地域貢献にもなるし、時間はかかるけれどチームの組織全体としては良くなっていくのではないかと感じていました。当時は、弁護士の方が選手として登録をしていましたので招き入れましたが、記事でも取り上げてもらっていましたし、インパクトはありましたね。
3×3だからこそ体感できる魅力は、「ストリートならではのもの」
石田さん:身長が決して大きくなくてもチームとして勝てるチャンスがあるということは魅力かもしれないですね。あとは、攻守の切り替えが早い競技なので、個人としても一瞬の駆け引きとか、考え方次第で自分の能力を5×5よりも活かせるという点は非常に魅力だなと思いますね。
桂さん:試合時間は、10分一本勝負。一日最大5試合やったこともありました。試合会場を1箇所に集約して複数試合を組むことで、1日で完結させようとしていることが多いので、選手の負担が大きなとは感じています。FIBA(国際バスケットボール連盟)としては、参加チーム数が多い大会がレベルの高い大会と認識するので、自然と大会運営側もそうする流れはありますよね。
石田さん:いろんな試合を、ひとつの会場で短いスパンで沢山見られるというのは価値がありそうですよね。また、3×3は場所を比較的選ばないため、ショッピングモールだったりとか、駅前であったりとか、何か別のイベントとの共催とか、人が集まる場所で試合が行われていく、そういったことに親和性が高いと思います。今後も体育館だけではなく、多様な施設、場所を用いて試合が開かれていくとは思います。
―バスケットボールは誰もが知っているスポーツの中でも、エンターテイメント性が高いですよね。展開の速さとか。魅せるプレーの多様性とか、会場で行われる派手な演出など。
石田さん:そうですね、体育でやったことあるスポーツという観点で言うならば、みんなが知っているスポーツでもありますしね。比較的身近に感じてもらい易いのかもしれません。最近では、同窓会がてらチームを作って試合に出ようという流れもあるみたいですね。
桂さん:ちなみに私は、その同窓会のような形で初めて3×3に触れました!3×3は親しみやすさということ以外に、DJブースの設定もできるので、観客数を自然と集められる仕組みづくりはしていますね。
音楽もガンガン流れている中で、選手たちはプレーしている。観客はお金をかけずにスポーツを観戦することができ、これまでスポーツに求めてきたことだけでないものを3×3は持っていると思いますね。
3×3は今、競技として確立していくための黎明期。今後の方針次第で、展開の仕方も大きく変わってくる
―選手の方は、バスケ以外にもスポーツをされていらっしゃいますか?
石田さん:スポーツではないですが、別で仕事をしている人は多いですね。中には、自分自身でスポンサーを見つけてきて、3×3のために毎日を過ごしている人もいますね。2020年のオリンピック競技にもなっているので、それに向けて準備している人、努力している人は増えてきています。
桂さん:現状の3×3に関しては、仕事をしながらでも活動できるというのも魅力のひとつなのかもしれないですね。
これが女子の5人制の場合だと、仕事しながらするプレーでは全く通用しないと思いますが、現在の3×3では可能性がある。そういった意味では、私たちプレーする側にも3×3の魅力はあると思います。これから競技のレベルや、仕組みがどうなるかによるとは思いますが。
今、私は特に、3×3の黎明期を楽しんでいますね。黎明期の場合は、競技の頂点を目指すことと、選手の競技人生の質の向上をすることは必ずしも一致しないといわれていますし。これからどうなるかはまだわからないですけどね。
石田さん:協会の方針次第で今後の仕組みは変わってくると思います。オリンピックでどれだけ本気でメダルを目指すということを考えるのかどうか実際のところプロの選手(Bリーグ)は24時間練習に時間を費やすことができて、そういった意味では、練習の絶対量的には社会人の選手よりもプロの選手から選抜したほうがメダルには近づきますよね。
ただ、3×3に関しては、ストリートから世界へというスローガンを掲げています。3×3の特性を理解してストリートの特徴を活かしながらプレーすることができれば、ストリートの選手にももちろんチャンスあると思います。
今後の協会がどういう方向に舵を切っていくのかは見物だなとおもいます。最初からBリーグやプロの選手たちだけで、3×3を開催して、ここまで盛り上がったかというとそうではないと私は思います。なので、代表活動、選抜の方針は非常に難しいなとは思います。
自分自身のキャリアを歩んでいる感覚はある。「捨てる」ことで得られた価値
桂さん:やっぱり、自分の人生を歩んでいるという感覚は常にありますよね。私は、普段は企業で働いていますが、一日を切り取ってみても、どう時間を過ごす必要があるのか、時間のコントロールを厳密に自分自身の中で実施していく必要はありますね。仕事をしながら続けているからこそ、体験できる難しさ、それと同時に感じる充実感はありますよね。
石田さん:バスケをしたいから、仕事を必ず〇〇までに終わらせる、というようなことを意識して取り組むというのは、聞いたことがあります。それだけバスケをしたいということであれば、自然と真剣に取り組む時間は増えますし、仕事の生産性は上がりますよね。そういった点では、非常にいい環境なのかもしれないですね。
桂さん:効率はものすごく求めるようになりました。取捨選択できることの必要性を感じましたね。なんというか、捨てる勇気というか。本当に自分に求めている必要なものは何か?というのは考えるようになりましたね。実は、競技者としての私は3年間のブランクがあって、湘南サンズの立ち上げと同タイミングで復帰しました。
スポーツ以外の領域で、つながれることにスポーツの価値がある
石田さん:スポーツはいいきっかけになると思うんですよね。湘南サンズはスポーツを通した地域貢献、社会貢献活動を大切にしています。バスケットは魅力のあるスポーツだから見てくれ!という想いはどのチームも持っていると思うんですけど、そうではなくて、それ以外のところでチームを知る、応援するきっかけを作っていくことが必要だと思っています。
バスケットボールの魅力を信じてはいますが、あえて信じすぎないようにしています。社会貢献活動、地域貢献活をしていくことで、チームの価値は上がると思いますし、その活動を通して、バスケットの魅力を知ってもらえるきっかけを作れればと思います。こういった活動は、やったほうがいいと頭では思っていてもなかなか実行することができないと思うんですよね。そんなきっかけを作れるようなチームになれたらいいですよね。
(2018年7月26日)