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上級生が雑用を担当!?短パンで練習!?大学日本一を成し遂げた、日本体育大学の硬式野球部が掲げる「体育会イノベーション」の真髄とは。

GUEST:古城 隆利(こじょう たかとし)

日本体育大学 体育学部 助教
日本体育大学 硬式野球部監督

【経歴】
日田高校―日本体育大学―いすゞ自動車株式会社―日本体育大学大学院
【実績】
《選手》
明治神宮野球大会出場
都市対抗野球大会出場 3回
《コーチ》
いすゞ自動車野球部 都市対抗野球大会 ベスト8
日本体育大学野球部 首都大学野球 優勝1回
          明治神宮大会 ベスト4
《監督》
日本体育大学野球部 首都大学野球 優勝3回
全日本大学野球選手権大会 ベスト4(H25)、ベスト8(H23)


今回は、「体育会イノベーション」を標榜する日本体育大学硬式野球部の古城隆利監督にお話を伺いました。同野球部は、首都大学野球連盟に所属。「人間力野球」をテーマとする、総部員数186名のチームです。37年ぶり大学日本一を獲得した秘訣とは?指導者としてのあり方とは?チーム作りの論点、そして今後の大学スポーツの可能性まで、幅広くお話をお聞かせいただきました。

※本記事はnote移行前の旧SPODGEで2018年9月1日に掲載した記事になります。



「人間力野球」を理念とするチームが起こす、体育会イノベーションの価値


―日体大の掲げる理念、目標はどういったものなんでしょうか。


私たちは、野球を通じて、人間形成をすることが目的なんですよね。

私が監督に就任してから、指導方針や、部の運営方針は一切変えず、常に人間として成長することかどうかが重要で選手たちにもそう伝えてきましたし、大切にしてきました。

私が就任する前は、野球に関しては、戦力がそれなりにそろっていたそうなんですが、なぜか勝てていなかったんですよね。ただ、その中でも優勝できた年のチームの特徴は、4年生がしっかりしていたということでした。一方で、勝てない年のチームに関しては、特徴として顕著に表れていたのが、私生活の部分でした。具体的に、寮生活の部分が非常に乱れていましたね。


私自身は、野球は人間形成の手段でしかないと思っていて、野球をやっていないとき、つまり私生活の部分でどれだけしっかりできるかどうかが非常に大切だと思っています。
入部して間もないときは、先輩への気遣いや、雑用を行なっていたものの、上級生になるとその緊張感もなくなってくる。昔ながらの体育会の上下関係とはそういったものだと認識しています。

ただ、そうなると、常に下級生への負担が大きくなり、勉強や、野球どころではなくなる。そして、環境に慣れる前に負担がかかるような活動をするので、結果も出にくくなるなど、様々なところに弊害が出てくるようになりました。

私が考える体育会イノベーションとは、その関係を逆転させ、上級生がチームの寮の運営や雑用を行い、下級生の負担を軽減させ、且つ後輩の面倒を見ることによって、下級生は、そういった上級生の姿を見て尊敬し、そして継承されていく。この流れを作っていくことこそ、「良き体育会の伝統」を作っていけると考えています。

―初めてそういった考え方を導入してみたとき、チームの反応はいかがでしたか?

チームの目的や競技成績の目標自体は特に変わらず、チームの土台作りを意識して取り組んでいました。
先ほどもお話した通りで、あくまでも、野球を通じて人間形成をすることが目的なので。

私が180名を超えるメンバーを一人ひとり見続けることは正直難しかったですが、練習の最初と、最後だけ、全員で実施することだけは拘ってやっています。そのタイミングでチームの方針を伝えたり、トピックスを共有したりすることで選手のモチベーションや、一人ひとりをできるだけ把握できるようにしていました。

その後は、いくつかのチームに分かれて練習をします。練習の内容や、状態の報告等も、チームごとにいるスタッフ間のミーティングで行われます。毎週1回、役員会議のイメージでスタッフが集まり、そのスタッフに指示を出しながら、練習を実施していく。会社のような組織を作りながら、役割を分け、全員に主体性を持たせる工夫をしていました。

体育会イノベーションの考え方にもあるように、4年生が私生活、寮生活でしっかりし始めると、ルールや規則を守ることが当たり前になり、且つ学生同士のコミュニケーションにも変化が見られます。例えば、監督自身がすべてを言わなくても、学生同士で指摘しあえる関係でいられるので、主体性が育まれます。あくまで人間形成を目的としているので、こうした運営システムの中で、自らの役割を見つけて当事者意識を持って活動することこそ、意味があるのかも知れません。


野球界全体にプラスの影響を。だから試合に勝つ必要がある


スポーツが持つ可能性は、挨拶することの大切さや、礼儀など、人として大切なことを教えてくれることでしょうね。そして野球を通じて人間形成をすることができると常々感じています。

私たちが試合に勝つことで、日体大硬式野球部が注目を集めることになる。そうなると、初めて、私たちが行なっている、人間力野球や、体育会イノベーションの価値が全国に広がっていくと感じています。
ひいては、野球界全体を変えることにもつながるかもしれません。

現在、当部活が行っている新しい取り組みの中で、高校生との交流戦を実施するというのがあります。
先日は、大阪桐蔭さんと練習試合をさせていただきました。その日はスタンドが満員でして、非常に注目を集める試合となりました。私たちのチームは応援もすごくて、どのチームよりも応援がすごいということは、試合に出ている人、出られない人それぞれの役割を活かしながらチーム運営をしているからこそできる内容なのかも知れません。


ちなみに、高校と大学の交流というのは、野球界では滅多にないことでして。(大学と、プロ野球の交流も同様)そういった新しい取り組みをしていくことで、野球界全体が変わっていくと思いますし。
以前から、一部の練習では、半袖・ハーフパンツでの練習をしています。いろんな意見はありますが、暑い夏の時期に長ズボンをはきながら、熱中症になってもいけないですし。

優れた指導者(リーダー)の輩出のために


―選手たちの卒業後の進路はどのようなものですか?

様々な選択肢がありますね。野球を続けていくものがいれば、教員になるものもいる。あとは、地元に戻って公務員として活躍する人もいますし、もちろん一般企業に就職する人もいます。どのキャリアに進んだとしても、部活で人間的成長を遂げてきた経験を活かしてくれるとは思っています。

当部で学んだことに、彼らが本当に価値を感じてくれていれば、自然とこの想いは継承されていくと思います。例えば、高校生が進路を選択する際に、先輩に相談しますよね?
当部のメンバーが聞かれたときに、価値を感じてくれているケースが多いので、「このチームにおいでよ」と、自信を持って呼ぶことができる。そうすると自然と野球のレベルも高い状態を維持することができる。そうして自然と、人を導くことを体感していくのだと思います。

大学スポーツは、学生と社会をつなぐ橋のようなものだと思っているので、体育会イノベーションの仕組み、システムをはじめ、部活動で過ごす時間こそが、彼らの将来にとって貴重な体験になることは間違いないと感じています。