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ラクロスのこれまでとこれから~山田幸代~


GUEST:山田幸代(やまだ さちよ)

プロラクロス選手。日本初のプロラクロッサーとして活動し、女子ラクロス界では世界トップクラスのオーストラリアリーグに加入し、2017年にはワールドカップオーストラリア代表に選出された。現在は、世界ラクロス協会の選手会メンバーなどを務めている。競技の普及にも尽力するラクロス界のパイオニア。
山田幸代さんHP https://sachiyoyamada.com/

コロナ禍を抜けたラクロスの現状

ーー前回(2020年8月)から少し時間が経ちました。世界中でコロナがあり、2024年現在通常に戻りつつありますが、ラクロス界のコロナ前後での変化や周りの変化はありましたか?
 
新型コロナウイルスの影響は、ラクロス界にも大きな打撃を与えました。コロナ禍において、プレイヤーたちは大変な状況に直面し、ラクロス人口が一時的に減少しました。他のスポーツ同様、通常よりも登録者数が減少し、その影響が協会にも反映されていました。
ただし、コロナへの対応が進み、オリンピック競技の採用により再び注目されるようになると、ラクロス人口は徐々に回復してきました。そのため、現時点では人口減少や増加といった変化は、あまり大きな影響を及ぼしていないと言えます。
しかし、コロナ禍の中でリーグ戦や試合がほとんど行われなかったため、日本のラクロスのレベルが停滞した時期でもありました。これは世界的にも共通する課題であり、特にコロナ期間にプレーをしていた選手たちの成長をどう促進するかが、現在の大きな課題となっています。

中高生向けラクロス大会の運営とその手応え

ーー山田さんが中高生向けのラクロスカップの運営に関与されているとお聞きしました。大学生からラクロスを始める方が多いなか、中高生向けの取り組みについて、進捗や手応え、周りの反応についてどのように感じていらっしゃいますか?

私はラクロスを日本で広げることを目標にしており、子供たちの選択肢の中に「ラクロス選手」という道が入ることをゴールとしています。そのため、年齢に関係なく、多くの方にラクロスに触れる機会や可能性を提供することに注力しています。
中高生に関して言うと、これまで日本では彼らが先を見たり、世界を視野に入れる機会が少なかったと感じています。そのため、高校の先生方とディスカッションを重ねながら、何か新しいきっかけを提供する必要性を認識しました。私が得意とする海外との連携を活用して、中高生たちがオリンピックを見据えた夢を持てるような機会を作りたいと考え、協会と連携しながら活動を進めています。
手応えについては、オリンピックフォーマットである「SIXES」への日本の移行が決まっていないため、急激な進展は難しい状況です。しかし、高校生たちがオリンピックを目指す中で夢や目標を持つきっかけにはなっていると感じています。
また、私たちはスポーツを通じた学び、すなわち「スポーツエデュケーション」を大切にしています。プレーをするだけでなく、その後に全員でどう考えるか、ただ反省するだけではなく、ディスカッションを通じて意見を交換する場を設けています。これにより、高校生たちにも少しずつ変化が現れているのではないかと思います。

スポーツエンターテイメント推進室での役割と期待

ーー山田さんは現在、民間企業のスポーツエンターテイメント推進室の室長として活躍されています。一民間企業の中で、山田さんのようなスポーツ人材がどのように活躍されているのか、また企業側からどのような期待を受けているのかについて、どうお考えですか?

私は、体育会のラクロス部に限らず、子供たちの選択肢を広げることがゴールであり、その一つの手段がラクロスというスポーツです。フルタイムシステムさんとの取り組みでは、企業と学生、企業とアスリート、そして企業と大学をつなげる役割を担っています。ただの採用活動や人の繋がりにとどまらず、スポーツを通じてどのような価値が創造されるのかを追求しています。
スポーツから学ぶことは、リーダーシップや組織運営など、企業にとっても大きな価値があると考えています。私たちはその価値創造を伝え続けることが役割です。私自身、スポーツを通じて社会貢献をしながら、「〇〇×〇〇」といった掛け算の中心に立つ存在として、企業と多方面をつなげる役割を果たせればと考えています。

ラクロスのオリンピック採用の意義と効果

ーー先ほどオリンピックの話も出ました。今年(2024年)はパリ五輪も盛り上がりましたが、昨年(2023年)10月に、ラクロスが2028年ロサンゼルス五輪の正式種目に採用されたことについて、その意義や効果を山田さんはどのように捉えていますか?

私もこのオリンピックに向けた取り組みに関わっており、特にSIXESという新しいフォーマットを考案するメンバーの一員として活動してきました。このフォーマットのルール決めは非常に難しく、IOCの規定に基づいて男女のルールを統一し、参加人数を減らす必要がありました。
ただ、120年ぶりにラクロスがオリンピックに復帰したことは、現役のラクロス選手だけでなく、これからラクロスを始める子どもたちにとっても、大きな夢や目標を持つきっかけになると考えています。非常に重要な出来事であったと思います。
一方で、日本のラクロス協会としては、オリンピックでラクロスが今後どれだけ続くかは不透明であり、現在注力している取り組みを深めることが重要だと考えています。私もその考えに賛同し、応援していますが、個人的には、オリンピックというきっかけをさらに活かして、ラクロスの認知度を高めるためのアクションがもう少しあっても良いのではないかと感じています。
 
ーー今回のラクロスのオリンピック採用は、社会的意義が大きく、プレイヤー層やファン層の拡大、さらにはメディア露出の増加に繋がると考えられます。日本のラクロスを成長させるためにも、この採用は必要な一歩だと思いますが、どのようにお考えでしょうか?

はい、そうですね。しかし、ここにはいくつか矛盾する点もあります。たとえば、2026年や2027年に日本で開催される世界大会では、10人制のラクロスが行われますが、これはオリンピックで採用されたSIXESフォーマットとは全く異なるルールです。ラグビーの15人制とセブンスの違いに似ています。
ラクロスは、まだ多くの方にそのルールが十分に知られていないため、逆にオリンピックフォーマットであるSIXESをメディアに取り上げてもらう方が、普及のためには効果的だと思います。もし10対10の形式でメディアに露出し、その後オリンピックを見た時に「何か違う」と感じられてしまうと、そのギャップが課題になります。
現時点では、そのギャップをどう埋めるかについては、まだ日本国内で明確な答えが出ていない状況です。この点に注力していないのは、もったいない部分だと思っています。
そのため、私が今企画している世界ラクロス大会では、世界のトップチームを招いて日本と対戦させる国際マッチの中で、オリンピックフォーマットであるSIXESを取り入れる予定です。これによって、メディアの注目を集め、オリンピックを見たときのギャップが少なくなるような取り組みを続けていく必要があると感じています。

ラクロスにおける多様性について

ーーラクロスにおける女性の活躍についてお伺いしたいです。特に日本では、女性が先行してプレーしているイメージが強いと感じています。長年ラクロスに携わってきた山田さんは、女性がラクロスで活躍できる場が広がっていることをどのように捉えていますか?
 
ラクロスが女性のスポーツというイメージを持たれているのは、おそらく日本だけで、世界的には男性のプレイヤー数が多いです。ただ、日本でも男女比はほぼ半々で、わずかに女性が多いくらいです。
ラクロスは、歴史的にも男子と女子で全く異なるルールが存在していて、もともとは別々の協会が存在していました。そのため、ラクロスは男子と女子それぞれの特徴が際立ちやすく、他のスポーツと比べて、女性が自分たちらしさを表現しやすいスポーツだと思います。
他のスポーツでは、男女が同じルールでプレーするため、スピードや激しさが求められ、どうしても男性に寄りがちです。SIXESに関しても、女子と男子の特徴を残しつつ、できるだけ近づけるようにしましたが、ラクロスの多様性や独自性は失わずに残しています。そういう意味では、ラクロスは女性が輝きやすいスポーツだと感じています。
ただ、私個人としては「人としての成長や活躍」を重視しており、それがたまたま女性である場合があるだけです。女性の活躍を特別に強調したいという考え方ではなく、人としての素晴らしさを追求する中で、結果的に女性が活躍するという形になっています。
女性の活躍は重要なテーマであり、応援することも理解できますが、私にとっては性別にこだわらず、個々の成長や貢献を大切にしています。答えになっているか分かりませんが、そういった思考が私の基本的な考え方です。

ーー今のお話を伺って、すべてを同じにするのではなく、文化的な違いやそれぞれの始まりを尊重し合うことが、多様性の本質であり、根本的な部分だと感じました。

私たちが主催する世界ラクロスの大会では、「ダイバーシティ推進部」という部門を設けており、運営に入る学生たちが中心となって活動しています。彼らが学んでいることは非常に重要で、ダイバーシティを推進するということは、何かを区別するのではなく、すべてを同じように捉えていく思考を育むことだと考えています。実際、私もその学生たちから多くのことを学んでいます。
もちろん、いろいろなディスカッションの中で、従来の考え方に固執する方々がいることも理解しています。それが、今までの思考を変えていくための最初のステップであると考えています。まずは「女性」というタイトルを持つ方々が活躍の場に立つことで、その考え方が柔軟になり、やがて私が述べたように、男女の違いを超えて「人としての成長」を重視するような考え方に移行していくのだと思います。
まだまだ、日本においてはその過渡期にあると感じています。ですから、今行われている取り組みが間違っているとは思っていません。それもまた、重要なプロセスだと理解しています。

スポーツの価値

ーー改めて山田さんにとって、スポーツをする価値や素晴らしさとは何でしょうか?

私にとってスポーツの価値というと、「学び」が一番大きいです。私はスポーツを通じて多くのことを学んできました。それが私にとっての最大の価値だと思います。スポーツから得られる学びを通じて、自分の人生や社会において自分の良さを発揮できるようになり、それが社会全体を動かしていく原動力の一つになるのではないかと感じています。スポーツは最強の教材だと確信しています。
さらに、スポーツを通じて「夢のグッドサイクル」を作ることができると考えています。スポーツは結果が見えやすく、その過程に対してフィードバックが早いので、自分の中でそのフィードバックを取り入れていくことで、夢や目標がどんどん形を変えていく。そして、その変化を通じて自分自身のグッドサイクルが生まれるのです。それがスポーツの持つ一つの大きな価値だと私は思います。