良い結果も、悪い結果も、発見であり成功である。 ~有森裕子~
GUEST:有森 裕子(ありもり ゆうこ)
元マラソン選手。バルセロナオリンピック、アトランタオリンピックの女子マラソンでは銀メダル、銅メダルを獲得。
現在は、公益財団法人スペシャルオリンピックス日本の理事長、特定非営利活動法人ハート・オブ・ゴールド代表理事をはじめ、数々の場で活躍をしている。
※本記事はnote移行前の旧SPODGEから2021年3月2日に掲載した記事になります。
あらゆる環境に順応し、自分の力を発揮する
ー有森さんよろしくお願いいたします。有森さんはこれまで競技者や起業、スポーツ団体の理事など様々な立場から様々な活動を行われていますが、キャリア選択の際に、ご自身の中で考えや軸はあったのでしょうか?
私は、「自分にしかできないことを活かせればいい」と考えていて、自分が持っているものを活かせる場なのかを考え、そこに順応し、チャレンジしたいと思っています。
ー順応という言葉がありましたが、順応出来る/出来ないを分けるポイントはありますでしょうか?
「○○でなければいけない」という固定観念を持っているのかがポイントになると思っています。
マラソンは固定観念を持つと弱くなるんです。何故ならば、対象となるものが確定要素のないもの、不確定なものばかりなので。
世の中は不確定のものばかりです。本来、確定的な事柄などは何もなく、自分が勝手に決めつけているだけなのです。
例えば、ゴルフで考えると、確定していることは『止まっているボール』だけですよね。それ以外の、コース・天気・芝のコンディションなど確定せず、その時々で違います。
不確定な環境で「自分がどう戦うのか、自分の力をどう発揮するのか」が大切です。
最後の目的・目標を達成する為に自分を変えられるということが『順応』ということです。
ー有森さんご自身で、順応する力を感じた事はありますか?
もともと「何でも力に変えてしまえ」という考えを持っていたので、自然と順応をしていたのかもしれません。私は実力があったわけではないですし、「チャンスがあればラッキー」という物事の考え方をしてきました。
『順応』に対してより強く感じたのは国際活動でカンボジアへ行った時ですね。海外の選手が限られた場所で力を発揮していることを知った時に感じました。
海外へ行くことはアスリートにとって大切なことだと思います。現状の練習環境など不満を抱えている方は海外へ行き、順応するということを感じて欲しいです。
「一つの方向からしか物事を見られない」ということは人間を弱くしますし、スポーツであれば競技力に影響すると思います。
多方面から物事を見られるということは言い方を変えればハングリーだということです。
ー『順応』、『ハングリー』。その他にも成功している方の共通点があると思います。
「自責、他責、どちらの考えを持っているか」だと思っていて、成功している方は、基本的に自責の考えを持っていると思います。これを自分自身で理解していないと、引き寄せる人も、体験することも変わると思います。
結局のところ、他責だと思っていることの多くは自分が何か決めつけているんです。起きた問題に対して客観的に見られるか、理解しているかということは世代関係なく物事の解決や成長に必要なことだと思います。
未来を築く人財のために
ーなるほど。いずれも人として大切なことですね。話は移りますが当社は大学でスポーツに取り組む学生の就職支援などを行っています。有森さんはこれからの学生スポーツをどのように考えているのでしょうか?
現在、大学スポーツは改善の余地がたくさんあると感じています。
大学生という人財は次世代の未来を築く人財ですよね。つまり、未来を築く人財を育てることになります。この世代を育てることに注目すべきですし、大学は人財の宝庫だと思います。
ー現在、高校・大学・社会人となるにつれ、スポーツに取り組む競技人口が減っています。各競技の継続力を上げるために必要なことは何でしょうか?
競技の違いはありますが、学校の部活動には限界があると感じています。
指導者が部活動を掛け持ちしていることや、指導が体罰と認識されてしまうことがあります。起きた問題の表面だけを捉えているようではいけません。
加えて、小学校・中学校の部活動に所属する子どもたちでは競技力の向上を求める子もいれば、遊びの延長のような考えを持つ子もいます。そういった子どもたちの意識を揃えることは大きな負荷になりますし、強制することに繋がります。
その中で競技を継続したくなるような想いにさせるのは至難の業です。
私は外部の指導者を使うことも考えるべきだと思います。社会にはトップレベルを経験した選手が溢れています。そういう人財を活かした運営方法など、教育現場(部活)の環境を見直す必要があると思います。
ー指導者(先生)もボランティアですからね。
そうですね。学校内で問題が起きれば対応するべきことも増えますからね。
私は子どもたち自身も「自分は○○という理由でここにいる」という意識を持つことが必要だと思うんです。学校外クラブの場合、「行きたい」と本人の意思がある子どもが多いですよね。そして、学校外クラブでは厳しい指導があったとしても理解がありますから、教えられる内容も安定します。そこで起こる問題はよほど噛み合わない限り大きな問題にはなりません。
学校は教育現場という特性と、子どもたちの意識のばらつきがあるが故に指導者への負担がかかり、子どもたちが競技を継続したくなるような想いや考えにすることは非常に難しいとと思います。
義務教育でのスポーツの提供、つまり部活動はフィジカルエデュケーション(体育)でいいと思っています。
ー一人ひとりが疑問を持つことが必要だと思います。
現場だけ、指導者だけ、という一方の当事者だけが考えてはいけません。対象となる生徒の保護者も交えて話し合いがなされるべきだと思います。
スポーツの経験を活かすのは自分次第
ースポーツ人財の価値はスポーツを辞めた時に本当の価値が発揮されると考えていますが、有森さんご自身は振り返ってみていかがですか?
正直、本人次第だと思います。
自分が何を見据えているのかを選手時代も含めて考えていることが必要です。
例えば、『マラソン』『サッカー』という人格はいないですよね。一人の有森裕子という人格が生きていくために、マラソンという手法を使っているだけです。そのスポーツに取り組んだ経験をどう使うのかは私しか考えられないことです。そういう感覚を持つことが大事なことだと思います。
みんな自分のことを必死に考えて生きています。スポーツ選手も同じです。
競技を取り組んでいる時に、自分が求めていることを考え、未来を見据えておくべきだと思います。
今はネットを使えば情報をキャッチできる時代です。将来のことを見据えながら競技に取り組んで欲しいですね。
ーそうですね。情報の溢れる社会ですから。
こうしてオンラインを活用して繋がることができますし、国や障がいを超え、取り込める人も増えました。上手くデジタルな部分を活用していくべきですね。
ただ、1つだけリアルでなければいけないことがあります。
それは応援です。
応援はリアルでないと伝わりませんし、リアルな応援でしか作れないものがあります。リアルな応援を無くしてはいけません。
『結果』は次の未来への発見
ースポーツ界で試合の中止や観戦の制限など設けられています。有森さんが願うアフターコロナのスポーツ界はどのようなものでしょうか?
リアルとデジタルの両方で組み立てられる柔軟性や受け入れが増えればいいと思いますし、
それに順応できる指導者が増えることを望みますね。
私が理事長を務めるスペシャルオリンピックス日本では、昨年、オンラインマラソンを開催したのですが、全国各地から参加いただきました。
オンラインを使用し、日本1周の距離をみんなで走ろうというイベントでしたが、結果は日本1周をはるかに超えて、地球6周分の走行距離を達成しました。
また、少し話は変わりますが、『順応』と言う点では、1998年に立ち上げた、ハート・オブ・ゴールドという団体で、カンボジアでスポーツを通じた活動を行い、立ち上げて23年が経ちました。私達はフィジカルエデュケーション(体育)を根付かせることで人財育成ができ、延いては国を発展すると考えています。
立ち上げ当初は、スポーツは情操教育であり国際貢献活動の対象になりませんでした。ですが、今は、体育教育を小学校・中学校、高校で出来るようなり、4年制大学を作り、体育教員を育てるプログラムを支援しています。
ー有森さんは様々な活動をされておりますが、その原動力は何でしょうか?
スポーツを通して自分が持っているものを最大限に発揮したいという思いと、フィジカルエデュケーション(体育)によって、人間がプラスに変化、成長できることの楽しさ。
この二つです。
人財育成をできる可能性をスポーツが持っているからですね。
ーこういった考えはスポーツを「やっててよかった」と思えなければ出来ない事ですよね。
カンボジアでマラソン大会を開催したのですが、子どもたちがイキイキと変化する姿を見て、スポーツを通じてできることの魅力と自分の経験を活かせるという楽しさに気付きました。
オリンピックの経験も良かったですが、このカンボジアの子ども達がスポーツによって変化した姿を通じて得た感動がすごかったですね。
自分がやってきたことの肯定感を極端に感じましたし、自分の喜びではないのに、子ども達の姿を見て自分も嬉しくなりました。
ー自分の取り組みが成功なのか、失敗なのかで悩むアスリートも過去お話する中でいらっしゃいました。「肯定感」は重要だと思います。
出た結果が成功や失敗ではなく、その経験をどう活用するかですよね。結果を出せたことは「何か発見できた」という成功です。
全ての物事の結果は次の未来への発見ができたというある意味成功である。
大切なことはその発見を次に活かせるか否かである。
それをし尽くした先に諦めと言う選択肢がある。
この言葉はトーマス・エジソンが残した言葉です。
もし、そうであるなら、あきらめと言う選択は安易にやってきません。死ぬまでにし尽くせなかったら諦められないんです。
ーなるほど。素敵な言葉ですね。最後に学生やアスリートへメッセージをお願いします。
今までとは違う環境で戸惑うことがあります。でも、みんながその状況で、すべての人が同じラインにいます。この中で何を発見するかが大切です。そして、その発見は必ず次に活かせるものがあります。それを見つける楽しさを感じて欲しいです。
今しかできないことがたくさんありますから。