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大阪桐蔭や履正社を倒しながら、甲子園を何度も勝ち取った猛将!山上烈監督とは。

GUEST:山上烈(やまがみ いさお)

高校野球指導者。上宮高校、上宮太子高校を野球名門校へ育て上げた名監督。


上宮高校、上宮太子高校を野球名門校へ育て上げた高校野球の指導者であり、監督として上宮高校7回(春6回、夏1回)、上宮太子高校2回(春1回、夏1回)を甲子園出場へ導いた実績をお持ちの、高校野球ファンの間では言わずと知れた名監督です。教え子には、元木大介選手(元巨人)や黒田博樹投手(元メジャーリーガー)がいらっしゃいます。弱小校から強豪校へ育て上げた経緯をお話頂き、その経験を通して社会で通用する人を育てるということをスポーツの価値と共にお話頂きたいと思います。

※本記事はnote移行前の旧SPODGEで2018年8月11日に掲載した記事になります。


遠かった強豪までの道のり


―まず初めに、山上さんが野球を始められたきっかけについてお話いただけますでしょうか。

家の近くに藤井寺球場があったからです。その球場は近鉄パールス(のちの近鉄バファローズ)の本拠地で、父親の繋がりでそこの選手たちがよく家に遊びに来ていました。その影響を受け、全ポジションのグラブとバットが自宅にあり、自然に近所の友達を集めて野球をしていました。野球ができる広場もいっぱいありましたしね。

―日本体育大学で外野手としてプレーされ、卒業後に教師として母校に赴任された当時の心境はいかがでしたか?

上宮高校は全校生徒が3,000名いましたが、野球部部員はたったの11名でした。母校を強くしたいという想いから、部員を集めるため、まず体育の授業でソフトボールを行い、上手な生徒を野球部に勧誘していきました。その中に、中田宗男(現中日ドラゴンズのアマスカウトディレクター)や田中秀昌(現近畿大学監督)がいました。

―強豪校になるまでにはまだまだ程遠い状況だったのですね。

その通りでした。部員数もですが、練習設備も強豪校には程遠い状況でした。天王寺の練習グラウンドは他の部活と共同で利用していましたから、打った打球が他の部活生に当たってしまうこともありました。太子にも上宮高校の太子グラウンドがありましたが、グラウンドそのものも、今からは想像もできない状態でした。バックネットはありましたが、フェンスやベンチもないただの広っぱでしたから。

―グラウンドを他の部活動と共同で利用されていたのは驚きです。

そうです。その後、太子のグラウンドを専用で利用するようになりましたが、毎日放課後になると、太子のグラウンドへ電車で1時間20分かけて移動していました。
部員には時間と電車賃の負担がかかるため、少しでも負担を減らそうと私自ら近畿日本鉄道(近鉄)の西尾さん(後の大阪市市長で上宮卒業生)に頼み込み、部員の学生定期券を発行できるよう特別に配慮してもらいました。

―練習に専念できるような環境が徐々に整ってきたのですね。

当時のグラウンドにはナイター設備がなかったため車のヘッドライトをつけて夜まで練習していました。秋の大阪大会で優勝した時は、せっかく高校近隣に大阪球場があるのだから、と思い当時の球場長に頼み込んで近畿大会を戦うために4日間大阪球場を借りて練習することもありました。
球場長が和歌山桐蔭高校出身の友人でしたので、運が良かったです。

大阪球場は元々南海ホークスの本拠地でナイター設備も整っていたため非常に魅力的な場所でしたが、白いユニフォームの高校生が南海ホークスのグラウンドを利用したいとは何事かと球場長に言われましたね(笑)。

市長や大阪球場長に頼み込んでそれらを実現してこられたのは、野球を通しての人との繋がりを大切にされてきたからだと思います。

人との繋がり、特に横の繋がりは重要です。

私は一生の付き合いができるような信頼できる人としか繋がらないようにしています。
何かあれば電話一本で仲間が集まり、協力し合えるような関係を大切にしています。

現代社会は人との繋がりが薄くなってきている気がしますね。
人との横の繋がり、縦の繋がり(上下関係)を利用することは、良い意味で持ちつ持たれつの関係だと思っています。しかし、人を騙したり裏切ったりと人間関係を悪用する人が残念ながら増えているような気がします。部活動をしていると、特に横の繋がりが大きいと思います。

リーダーに向く素質とは


―横の繋がりの大切さは実社会のみならず部活のチームでも同様だと思います。チームを強くするポイントとはどういったところにあるのでしょうか?

団体スポーツに関しては、選手の中にチームリーダー、ゲームリーダー、ムードリーダーとそれぞれの役割をつくることです。キャプテンになりたいと立候補する人もいますが、選挙で決定する時もあります。

キャプテンにチームで一番技術がありプレーの上手な子を抜擢すると伸び悩むことがあります。それは、自分のことだけでなく周りのことに気を遣う必要があり、自分のやろうとしていることが出来ない時がでてくるからです。キャプテンの役割とはチームをまとめることですから。

また、キャプテンは監督から叱られることがあるが、自分自身が叱られているのか、チームのことで叱られているのか、監督の目を見てそれを悟れるような人間でないと務まらないと思います。だから、この子にはやらせたくないと思う時があるが、どうしてもやりたいと主張してきた子もいます。それが元木大介です。

―元木大介さんは自らキャプテンに立候補されたのですね。

チームの人気者で技術もありました。どうしてもやりたいと名乗り出てきたので、キャプテンを任せました。

―キャプテンにはどのような人が向いているのでしょうか。

みんなを見渡して指示が出せる人でしょうね。また、監督が何を考えているのか感じる・わかることができる人です。
こちらの考えていることを目をみて先に察し、こちらが言うことを前もって感じることができる人は非常に適任です。

―少し話は戻りますが、リーダーには3種類あるということでしたが、どのように適任を判断されるのでしょうか。

最初にそれはわかりません。日々練習をしていて、あるいはみんなで話をしている中で、客観的にそれを見たり聞いたりできる人=状況判断が出来る人が適任でしょう。

例えば、選手が叱られていると、あとでその選手に声をかけて色々な話をしている等、その状況を読むことができる人です。だから人の目は前にだけついているのではなく、頭の後ろにもついているとよく言いました。

―物事を色々な角度からみる重要性ですね。

そうです。選手がいくら練習を重ねても伸び悩む時期がありました。その時は多角的に選手をみるように心がけ、練習中に私自身がネット裏、一塁ベンチ、三塁ベンチ、内野、外野に行きグラウンドの練習風景を見ながら歩いたりしました。
そうすることで、普段は見えなかった選手の特徴を感じることがあります。出来ると思っていたプレーが実は出来ていなかった、出来ないと思っていた選手が実は出来る選手だったなど、見つけてあげることができます。

これは会社でも一緒のことだと思います。
上司が何も言わないでデスクで部下の状況をじっと見ているときは何かを見つけようとしているとき、すなわち一番悩んでいる時です。

―山上さんが良いと思う選手はどのような人でしょうか。

“よく打つ、よく走る、よく投げる”はもちろんですが、こちらの考えていることを先に察知してくれて、物事の先を読むことができる子がやはり一番良いです。
例えば、ノーアウトランナー一塁。カウントをみて、監督は次にどのようなサインを出してくるのかと感じることは非常に大切です。たとえベンチにいても一緒のことです。

―それは社会でも企業でも一緒のことが言えるのでしょうか。

そうですね。上司から何か言われる前に、先に先に仕事をこなすことや、どんどん行動できるということは非常に重要だと思います。
人それぞれ個々の性格もありますが、そういった人を育てるというのは非常に重要です。

私は選手を育てるため、なるべく一緒にいる時間を作っていました。日々の練習や生活も一緒に過ごすことができる環境を作るため、夏休みはずっと合宿をしていました。また、グラウンドでのミーティングも大切にしました。言ってもわからない人は、いくらやってもダメですから。

―感じる力、状況を読む力は仕事でも一緒ですね。

仕事で営業先に行っても、その会社の社員の表情、部屋や雰囲気からある程度、会社の状態を感じることができると思います。だから、営業先がどんな状況かわからないのに営業電話しか掛けずに、営業先に顔を出したことがないような仕事の仕方は良くないと思います。
口先三寸な人ではなく、やはり行動力が伴ってこそその人・会社と付き合いたいと思いますから。状況を読むことで仕事が決まることもあると思います。

甲子園への思い


―甲子園初出場された時の甲子園はどんなところでしたか。

甲子園で野球をすることは高校生の夢でしょ。もちろん甲子園には必ず出してやりたいと思います。言い換えれば、あの高い山があるからみんなで登るんだ。その高い山に登ってみるとその後ろにもっともっと高い山がある。甲子園に出ている高校すべてが強い。各地区を勝ち上がってきたチームだからそれだけの力が甲子園には集結しています。

―特に印象に残っている試合はありますか。

勝った試合より負けた試合のほうが印象に残っています。甲子園で戦っていると勝っているときは早く終わりたいからイニングがすごく長く感じますが、負けているときは早く追いつきたいからすごく短く感じます。大阪予選では、そのように感じることは全くなく、ゆったり余裕をもって試合を観ていられました。


―チームを何度も甲子園に導き、時には選手を叱る時もあると思いますが、それはどういった時でしょうか。

プレーで失敗することに対しては一切責めません。
ただし、できるのにやらない、いい加減なプレーをする、態度が横柄などそういった選手は厳しく叱ります。また、一切試合には出さない。遠征にも連れて行かない。外野を走っていなさいといいます。

―過去の黒田選手のインタビュー記事を読みましたが、黒田選手は外野をひたすら走っていたとか(笑)

ええ、黒田選手もその一人でしたね。大失敗もありますが、それ以上にストライクが入らずフォアボールばかりでした。確かに高校生は、普段の生活でも浮き沈みがある難しい年齢でしょう。
だからと言って、プレーにまで影響が出るようではダメです。高校生の野球生活は短いもので、最長でも2年6ヶ月しかありません。その間に戦って勝たなければいけません。そこまでのレベルに持っていこうとすると、 “当たり前のことを当たり前にやる”という簡単なことができないのはよくないと思っています。

―2年6ヶ月とは長いようで本当に短いのですね。

どれだけ短い時間なのかを体感してきているから、家に帰っても合宿中でもあの子達はどうしたら伸びるのかなと、離れていても常に頭の中で考えていました。
夏休み期間中は家に帰らずに合宿を行い、練習後は一人一人の選手を呼び出して順番に指導していました。早朝自主練習をする子もいれば居残りで自主練習をする子もいますので終わるのが夜中になることもありました。私も寝る時間がなくユニフォームを着たまま寝てしまうことは度々ありました。

なぜそこまでやることにしたかは理由があります。

以前、練習後に選手に伝えようと思っていたことを伝え忘れたことがありました。“明日伝えよう”“しばらくしてから伝えよう”では高校生活の2年6ヶ月は遅すぎます。日にちが少ないから、一日一日はものすごく重要です。だから夜中でも選手と話すことができる合宿を大切にしていました。

もちろん、選手が寝ているときにわざわざ起こしたりはしませんよ(笑)また、合宿では選手と一緒にお風呂に入り悩みを聞くこともできます。やはり、裸の付き合いは重要です。自然と核心に触れることができますから。選手の毎日の成長が非常に楽しみで、明日という日が来ることが楽しみでしたね。


スポーツに対する想い


―山上さんが考える大切なこととは何でしょうか?

スポーツも勉強も仕事もすべてに共通しますが、心技体でまずは“体”であると思います。体力がなければ思考力もないが、体力があればすべてに勝てる。仕事でも忙しい日は夜中まで終わらないこともあると思います。そういった時に、体力がなければ仕事をこなせないですよね。

―指導者としてのやりがいはどういったところにあるのでしょうか?

どんな選手に巡り合えるかわからないというところです。プレーを観てダメだと思った選手が伸びてきたり、伸びると思った選手が伸びなかったりと、黒田投手に関しても未だにそこまで伸びるとは思わなかったと、広島カープからメジャーリーグへ移籍する際、本人に話しました。

―山上さんは一緒に野球をしたいと思う選手を観に行かれることもあったのですか?

そうですね。その時は、まず練習風景を観に行きます。もちろん大会も観に行くことはありますが、特に練習を観るようにしています。野球のプレーが上手であれば上手なほうが良いですが、選手の練習中の態度というのは非常に重要です。

―練習中の態度ですか。

そうです。会社が人を採用するときも同じでしょう。面接での印象と入社後の印象が違う人がいる時があると思います。それと同様で表舞台の大会だけではなく、練習にもしっかり取り組むことができる人は強いですね。
―山上さんが大切にされていることを教えていただけますか
相手はあくまで高校生(子ども)ですので、人間性が大切です。それなしには何もできないと思います。私は野球のできない子を叱ったことはないですし、逆にキャッチボールをして野球の基礎を教えていました。野球のできる子が横柄でいい加減な言動をとる時に厳しく叱ります。

―いい加減な言動とは?

運動選手で怪我をするのは、不用意なときなんです。例えば、靴のかかとを踏んで歩いたり、グラブやユニフォームを邪険に扱ったり、試合用のユニフォームを持って帰らないで部室に置きっぱなしにしているなど、個人のいい加減な行動でチーム力が下がってしまいます。
これにはレギュラーや補欠は関係ないです。

私自身が現役のとき、大会3週間前のプレー中に選手と接触し骨折してしまい、試合に出ることができなかったことがあります。その悔しさを知っているから、生徒には口うるさく言いますし、指導者として選手にそのことを絶対教えなければならないと思います。
グラウンドで打球が当たったり、バットが当たったりする事故は指導者の責任です。怪我をしないように練習のときからしっかり最初に教育するのです。仕事でも同じです。

―山上さんが考えるスポーツの価値やスポーツをする醍醐味を教えていただけますか

スポーツを通して努力をすることを学び、世の中の役に立つような人が育てば一番良いと思います。

人というのは、横のつながり、あるいは縦のつながりを一番大切にしなければならないでしょう。社会でも一緒です。コツコツと努力を積み重ねて立場のある職に就いた人と、努力もせずその職に就いた人とでは全く態度が違うと思います。その人が部下や後輩からどれだけ慕われているのか、重要な指標となります。
先ほど、監督の想いまでくみ取ってくれる子が重要という話をしましたが、それと一緒で、たとえ表現が厳しくても、その背景にある意図や想いまでくみ取ってくれる人が重要だと思います。