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世界で活躍する選手を育てるために。 ~日本プロテニス協会理事長 藤沼敏則~

GUEST:藤沼敏則(ふじぬまとしのり)

日本プロテニス協会理事長。アメリカのフロリダ州に開校していたインターナショナルアカデミー・オブ・テニスへコーチとして迎え入れられた日本人で数少ない一人。アメリカでの指導経験を活かし、ジュニアの普及・育成・強化に携わる。

日本プロテニス協会 https://www.jpta.or.jp/
日本国内におけるプロテニスコーチとプロテニスプレーヤーによる組織。プロテストや各種セミナー、ジュニア育成、普及活動などを行っている。


日本プロテニス協会の理事長を務める藤沼敏則さん。
テニスというスポーツを通じて感じたアメリカと日本におけるスポーツに取り組む環境について、お話を伺いました。また、次世代の選手を発掘する「ニュージェネレーションテニス・ジュニア・スカウトキャラバン」から感じた可能性を秘めた選手の特徴についてお話しいただきました。

※本記事はnote移行前の旧SPODGEから2021年12月3日に掲載した記事になります。



日本プロテニス協会の取り組みとは

―藤沼さんが理事を務める日本プロテニス協会ですが、日本テニス協会との違いについて教えていただけますか?

まず、日本テニス協会(JTA)は1922年からプロとアマチュアを統括してる団体です。海外との日本の窓口にもなります。

もともと、アマチュアが主流であったスポーツ文化が時代とともにプロ選手が増えました。オリンピックでもプロ選手が出場するようになり、プロとアマチュアの垣根がなくなりました。

プロ選手として大会へ出場するために、1972年に石黒修氏ら5名の選手が中心に立ち上げた協会が日本プロテニス協会(JPTA)です。
プロテニス協会はプロ選手の集団として大会出場など活動するとともに、プロの指導者を育てライセンスを発行する日本で唯一の団体でもあります。

プロテニス協会では『セイコー・スーパー・テニス』など大きな大会を運営していたのですが、バブル後に大会が無くなりました。そのため、所属するプロ選手が減少しました。

現在は、将来を担うジュニア選手と指導者の育成をするために、アメリカのプロテニス協会と提携をしています。また、所属していた元テニスプレーヤーたちがその技術の高さを活かしてテニスを指導するイベントを開催しています。

―ジュニア選手の育成はどのようなことを行っているのでしょうか? 

20数年前、野球やサッカーといったテニス以外のスポーツが盛り上がり、ジュニア世代の選手が他のスポーツに行ってしまったため、競技人口が減ってしまいました。

その中から世界で戦う選手を育てることは非常に難しいと課題を感じていました。
また、ジュニア世代ではテニスの技術で選手を選ぶことは難しいことです。

そこで、体力審査を行い、育てる選手を見極めようと小学生を対象にした『ニュージェネレーションテニス・ジュニア・スカウトキャラバン』を開催しました。

日本の将来を担う原石を探すために体力審査を行い、見つけた逸材をプロテニス協会が育てています。

―将来の選手を見つけるとありましたが、藤沼さんが感じる『原石』の特徴はあるのでしょうか?

目を輝かせている選手だと思います。

目をキラキラさせて何でも楽しそうにやる選手は、何か持っていると感じますし、顔色や目付きが違います。純粋にテニスを楽しんでいるのでしょう。何よりも一生懸命に取り組みます。

世界のスタンダードを日本へ

―楽しんで一生懸命に取り組む選手がどんなスポーツでもトップになると思います。他に、ジュニア世代に向けた普及や育成はどのようなことを行っているのでしょうか?

まず10歳以下・12歳以下・14歳以下の予選大会を行い、上位入賞者のみで毎年2月に全国大会を開催しています。
この大会は2年前からIMG※1と提携し、優勝した選手をディスカバリーオープンという世界大会へ連れていくようになりました。

※1 IMG(IMGアカデミー)は、アメリカフロリダ州にある中学・高校で勉強とスポーツの両立を図る世界的に有名な学校です

―世界で戦う選手を育成しているのですね。

そうですね。
世界を視野に入れたIMGとの連携に並行して、2019年8月よりUTR(ユニバーサル テニス レーティング)※2を導入しました。

※2 UTRとは2008年にアメリカで創設されたテニススキルの評価制度。評価の尺度を1から16.50までの数値で表してスコア化します。プロ、アマチュア、年齢、性別、国籍など問わず、個々のプレーヤーの実力を数値化するもので、ランキングよりも正確に自分自身の実力を知ることができる制度です。

各地域の試合にはレベルの格差があります。
国際テニス連盟(以下:ITF)が定めるITFランキングがありますが、大会の大きさや地域のレベルなど格差があり、ランキング順位と実力が異なることが多々あります。日本での評価はITFランキングで判別していました。

ただ、アメリカなどの海外諸国はUTRを導入していたため、日本でも2019年8月よりUTRを導入しました。

UTRを導入したきっかけは野井夕夏子(のいゆかこ)というテニス選手がキッカケでした。
彼女は高校を卒業してすぐにプロになりましたが、数年で引退しアメリカのフロリダ州立大学でテニスを勉強していました。

毎年20名ほどジュニア選手を連れてアメリカへ遠征に行くのですが、ある大会で野井さんと再会しました。当時、野井さんはIMGでコーチをしていて「ぜひ、IMGへ遊びにきてください」とIMGを見学するチャンスをいただきました。

後日、IMGへ見学に行くと、田丸尚稔(たまる なおとし)さんというIMGでアジア地区のマネージャーを務める方がIMG施設内を丁寧に案内していただきました。
この田丸さんこそが、UTRを教えてくれた方です。
UTRの話を聞いた時はすぐにでも日本に導入したいと思いました。

―田丸さんとの出会いがUTR導入の大きなキッカケになっているのですね。

そうですね。UTRのお話を聞き、日本では日本プロテニス協会が最初に取り入れました。
日本のジュニア世代が海外で活躍することを願い日本での導入を決断しました。

―UTRの導入何か変化はあったのでしょうか?

アメリカではUTRが浸透しており、アメリカにある大学のスカウターはUTRを参考に選手をスカウトします。

過去、「優秀な選手はいないか?」と話をいただくことがありましたが、選手の特徴がなかなか伝わりませんでした。UTRを導入することで共通認識を持っているので、ポイントを伝えるだけで選手の実力が理解できるようになりました。

アメリカの大学へ推薦をすることが容易になったため、日本からアメリカへ留学する選手も増えました。

―なぜ、アメリカの大学でプレーをするのでしょうか? 

スポーツに取り組む環境として、アメリカの大学は世界トップレベルの施設が揃っています。一つの大学でスポーツに割く予算が150億円あるとも言われていて、日本のプロ野球チームを運営する費用と同じくらいと耳にしたこともあります。そのため、科学的ですし、素晴らしい環境でスポーツに取り組めます。

また、優秀な選手にはスカラシッププログラム(返済不要の奨学金制度)を利用し、チーム強化を行うこともできます。

おそらく、アメリカにある各大学がスポーツへの価値や可能性を感じているから取り組めることだと思います。

日本人選手が世界で活躍することを目指して

―日本のスポーツ界でも今後海外留学を目指す高校生が増えそうですね。一方で、日本でも選手育成の環境を整えていかなければいけませんね。

アメリカへ行きIMGや大学など見て回りましたが、帰国して感じたことは、このままの日本では選手が育たないと思いました。

良い指導者は日本にたくさんいますが、選手を育てる環境が整っていないと思います。理由は、基本的な大会がトーナメント制にあることや試合方法が大きく違うからです。

より高いレベルの人と対戦する場合、自分も勝ち上がらなければいけません。

しかし、試合当日に病気や怪我、調子が悪く敗れてしまうと、上位大会には行くことが出来ず、来年の全国大会に向けて1年以上再挑戦しなければいけません。大きな大会頻度も1年に数回なので、気負い過ぎて積み上げてきた実力を発揮できずに1年を終わらせてしまう可能性があります。

この環境では選手が育ちません。

一方、アメリカの場合、毎週末に大会があります。平日に練習してきたことを週末の試合でチャレンジします。選手は大会に向けて考えて練習に取り組みますし、試合回数が多いので、のびのびとプレーします。

また、UTRを導入しているので、どのような対戦相手なのかわかりやすいですし、ポイントを上げるために努力します。

アメリカには選手が育つ環境があるのだと感じました。

正直なところ、このギャップに驚き指導者をあきらめようと考えたこともあります。伊達公子さんを育てるなど、日本屈指のテニス指導者である小浦武志(こうらたけし)さんに相談すると「おれも日本のテニスの環境を変えたい。お互い頑張ろう!」と言葉をいただきました。この一言で指導者を続けようと思いました。

―日本人選手が世界中のあらゆる競技で活躍する姿が見てみたいですね。

日本のジュニアや若い世代が海外を目指して競技に取り組んで欲しいです。
海外へ留学するとなれば、必然的に基礎知識や語学力が必要になります。自ずと学力が上がるのではと思っています。
世界で活躍する選手を輩出するために、これからもテニス界から日本スポーツを支えていきたいと思います。


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